幽鬼の庭で柘榴のお茶をどうぞ ※保留中

幽霊の町に行く列車

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「私たち、まるで心中しに行くみたいだね」

 もしかしたら片道切符かもしれない列車が動き出して間もなく、弱々しいながらにどこか安堵や満足げに、ヨリカは呟き囁いた。美しくも病やつれした妹は、二人がけのとなりに並び座った兄に肩と頭をよりかける。
 兄も妹も、このままでは妹のヨリカが遠からずに死ぬことを知っている。そしてお互いに母親だけ違う両親は、彼らがもう帰ってこないかもしれないことを知っているはず(今なら父親は二人の母たちから聞いていることだろう)。
 これは異母兄妹の「駆け落ち」で、行き着く目的地は冥府の隣町、幽霊たちの庭先だ。そこならヨリカは死なないだろうし、二人にとっては最後の楽園にでもなるのかもしれない。
 本当は、最初には妹だけが行く予定で(通達があって許可が下りたのだ)、兄は見送り・送り届けるだけのはずだった。だが希望を出して、書類を作成してもらい、兄もあちらで付き添い続けて良いことになった。こっそり協力した母たちは狂乱した父親から殴られたかもしれない(普段なら暴力までは差し控える男でも、取り乱すかもしれないから)。
 兄は妹に言った。

「死にに行くんじゃないよ。あっちで一緒に暮らして生きるんだ」

 妹は目を丸くして、それからほどけるような笑顔を咲かせて、兄の腕に取り縋ってもたれた。自分で座っているのが苦しいとか疲れただけでなく、たぶんそうしたいから。「うん」と小声で。
 他に、好きになるほどの相手なんかいない。
 まして病を得てからは、なおさら。

「今だったら、私だけ死んじゃっても、それはそれで幸せなのかも。あと十分くらいで列車が出るけど、それまでに私が死んじゃったら、お兄ちゃんはあんな場所に行かなくて良くなる」

 おもむろに小難しい顔になったサヨリが窓の外を目線で眺めるのを、無言の兄の腕が肩を抱き寄せて、手に手を取った。優しげで柔らかな力だったが、絶対に逃さないための意志がこもる。動き出した列車の窓から投身自殺したりされてはたまらない。
 それから妹は、列車が発車するときまで、兄の手指に触れておもちゃにしていた。
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