夜空に咲く花火よりも美しい君の笑顔に色褪せることのない恋をした
 だが、お祭りで一回会っただけの女の子。どこの学校の子かも、それどころか名前すら分からず、出会いのきっかけである神社で彼女を捜すことしかできなかった。

 でも簡単には会えなかった。
 けど諦めることはできなくて、何度も神社に通った。そして夏祭りの日からちょうど一カ月経ったころ、友達と遊んでいる結菜を見つけられたのだ。


「おい」

 嬉しくて嬉しくてたまらなかった。
 だが変なプライドが邪魔をして素直に会いたかったとは言えず、ぶっきらぼうに声をかける。

「誰?」

 は……?

 その瞬間キョトンとした結菜の表情と言葉が、胸に突き刺さった。そして次に襲ってきたのは落胆だ。

 当然のように覚えてくれていると……喜んでくれると信じてたのに。身勝手な怒りが心を占める。


「はぁ? ふざけるなよ」

 結菜の腕を力強く掴むと、驚いた彼女の目と視線がかち合う。結菜の横にいた女子の「結菜ちゃん!」という叫びにハッとして、結菜の手をはなす。


「ご、ごめんなさい」
「もういいよ。お前、結菜っていうのか。どこの学校?」
「……と、兎谷学園」

 結菜がそう答えた途端、怯えた顔で震える結菜の手を掴み、彼女の友達が走り出した。小さくなっていく背中を呆然と見つめる。

 その後は結菜の学年やクラスを特定し、偶然を装って声をかけた。
 覚えていないことが許せない気持ちと、もう二度と忘れないでほしいという気持ちが綯い交ぜになり、どう接していいか分からなかった。結果、虐めることしかできず、足を引っ掛けたり、髪を引っ張ったり、彼女が嫌がることばかりをした。


 俺の顔を見るたびに怯えるようになった結菜にどうしていいか分からないまま、彼女は遠くへ行ってしまった。
 心の中で何度謝り悔いても、もう彼女がここに戻り許してくれることはないのに。
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