逃げ道を探すには遅すぎた
煌びやかな世界に押し潰されるような感覚になる。その時、会場が騒めいた気がした。誰か新しい貴族が来たのかな。まあ、私には関係ないか……。

「私と、踊っていただけませんか?」

凛とした声が響いて顔を上げた。流れるような金髪と赤い目が私の目の前にある。ーーーウィリアムだ。

「えっと、私、踊れなくて……」

「問題ありません。私がリードします。こんなに可憐な女性を放っておく男の気が知れません」

ウィリアムが微笑む。周りの視線が突き刺さって痛い。でもこの手を取らないと行けない気がして、私はウィリアムの手を取った。そしてみんなが踊る輪の中へと入って行く。

「力を抜いて。私に全てを委ねて」

耳元で囁かれてびくりと肩が震えた。見上げたウィリアムの目は熱を帯びている。この目、シャノンと似ている。もしかして、ウィリアムもーーー。

「綺麗です。ドレス、とてもよく似合っている」

また囁かれた。触れた手が優しくて、腰に回されたウィリアムの腕が離れようとする私を引き寄せる。

「逃げないで、雫」
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