ワケアリ無気力男子になつかれてます
似た者同士
○子供の夜子の背に、わざとらしく声をかける子供の黒い三人程のシルエット。
子供1「やーい、やーい黒魔女!」
子供2「闇子(やみこ)だ!」
子供3「あいつ、夜になると黒い羽がはえるらしいぜ」
こわーい――心ない声が夜子にむけられる。
○夜子 ベッド (朝)
目を覚ました夜子(胸元くらいの黒髪)。ゆっくり目を開ける。少し汗あり。
夜子「またあの頃の夢……」
ため息まじりに片手で顔を覆う。
夜子(いつまで見続けるんだろ……)
起き上がり、制服に着替えた夜子は浮かない顔で部屋をあとにした。
○学校 階段
桜が舞い、外に貼り出してある新しい二年のクラス表を確認して教室へ向かうため階段をのぼる夜子。
夜子(……あぁ、お腹痛い)
クラスに馴染めるか、いじめられないか、不安が溢れてくる夜子はお腹を押さえながら階段をのぼりきる。
教室はすぐそこだが、夜子は足を止めた。
夜子(イヤだなぁ……ドアを開けた時に集まる視線が)
渋々教室への一歩を踏み出した時、奥の階段をのぼっていく黒いマスク男子生徒を見つける。
夜子「今の、二年の上履きだったような……」
一年から、赤、緑、青――と学年ごとに色分けされている上履き。
夜子(教室、間違えた……とか?)
まぁいっか――そう思った夜子だが、やはり気になって奥の階段へ走り、のぼっていった。
○学校 屋上前階段
夜子(どこに行ったん……いたっ!)
屋上前の階段に俯いて座る男子生徒を見つけ、咄嗟に隠れる。
さりげなく覗きながら様子を伺っていると、不意に目があってしまう。
夜子(!?)
明らかにばれてしまい、顔をしっかり出せば、長めの前髪から見えた目で男子生徒に『何?』と、うったえられる。
夜子「えっと……」
(どうしよう、同じ学年だけど名前知らなかった)
地味に気まずい状況になり、目を泳がすと彼の鞄についていた"Y SENZAKI"と書かれたクマのキーホルダーを見つけた。
夜子「たまたま、せ……先崎?くんの姿が見えたから、教室間違えたのかなぁ……と」
優麗「そう……」(ウルフヘア黒髪)
また俯いてそっけなく返事を返されどうしたものか悩む夜子。
夜子「あー、大丈夫そうならわたし教室に戻るけど……」
夜子は立ち上がって降りる素振りを見せる。
優麗「大丈……ばない」
夜子「え?」
予想外な返事に夜子は目を丸くする。
「わたし、運ぼうか?保健室までっ」
「……いや、保健室じゃ治らない」
思わず、近くまで歩み寄って再び声をかける夜子。
夜子「ちなみにどこらへんが?」
優麗「身も心もボロボロ。重傷……」
ドヨン、と負のオーラが優麗の周りに出る。
夜子「えっ……何故に?」
思った答えではなかった夜子の表情は心配もあるが、ひきつっている。
優麗はドヨンとした空気のまま。
優麗「クラス表を見るのに人ごみにのまれるわ、新しい環境におかれるわ……同じクラスやったーとか、教室が明るすぎて落ち着かない……」
夜子の口が半開きになる。
夜子(どうしよう)
優麗「ていうか友達づくりとか無理。萎える」
膝を抱える優麗。
夜子(き、共感しかないっ)
優麗「あ……胸焼けしてきた」
優麗は胸ではなくなぜか心臓を両手でおさえる。
夜子(……同士かもしれない)
夜子は優麗を見つめながら胸を撫でた。
○教室前廊下 (朝)
屋上前から一緒に教室へ向かった。
優麗「君、どこの子?」
夜子「どこ……あ、クラス?わたしは一組の──っ一組です」
名前を言おうとしてやめた夜子に不思議そうにする優麗。
優麗「……同じなんだね。一応よろしく。親切な人」
けだるそうに手を振ってとぼとぼと先に教室へ入っていく優麗。
優麗の背中を見つめる夜子。
夜子(親切な人……か)
○教室
初日の授業恒例の自己紹介タイムが毎時間訪れる。
次々と自己紹介していく生徒たち。
先生「はい、次の方ー」
夜子「は、はいっ……黒羽 夜子、です。よろしくお願いします」
拍手と同時に着席する夜子。
【小さな声で言いたいがもう一度と言われるのを避けるために声量は出したつもり】
また次々と自己紹介が進んでいく。
優麗「先崎 優麗です」
猫背でペコ、と首だけのお辞儀をして優麗は座る。
隣の列の前席、優麗に目だけをむける夜子。
【……制服以外黒づくしだ】
【襟足と前髪が少し長い黒髪に黒マスク】
【まぁ、わたしも人のこと言えないけど】
目をつむりため息をつく。
夜子「はぁ……」
(高校に入ってからは、変な呼び方されることはなくなったけど……)
窓の外を見る夜子。
【名前を何度も言わなきゃいけないこの時間は、わたしにとって──じごくだ】
○学校 (放課後)
帰りの挨拶が終わるとともに、男子生徒が手を上げた。
男子生徒1「なぁなぁ!クラスの親睦会的なのしない?」
夜子(え)
女子生徒1「あ、いいねぇ!やろうよ」
女子生徒2「確かに!二年間同じクラスなわけだし」
【そう。二年間クラスがえなしの、文系と理系に分かれている】
男子生徒2「何するー?」
男子生徒1「そうだなぁ……」
盛り上がっていく側と、静かに話を聞く側のクラスの面々。
女子生徒1「スイパラとかは?」
男子生徒1「女子向けじゃん!」
女子生徒2「偏見じゃんー?男子も普通にいるし。賛成!」
女子生徒3「私、いいとこあるから電話してみるよ!ちょい待っててー」
女子生徒3が教室の外へ電話をかけにいく。
待っている間にもクラスでは、スイパラのメニューについて会話が盛り上がってる。
憂鬱そうに机のうえに置いた鞄をクッションがわりにする夜子。
優麗の方に目をやると、またドヨンとしている。
夜子(先崎くんも、ノリ気じゃないのかな?)
女子生徒3が入ってくる。
女子生徒3「土曜日にちょい遅いかもだけど16時から団体予約できるって」
マジで!?──クラスが盛り上りを見せる。
男子生徒1「じゃ、とりあえず今週土曜スイパラいこうぜ!」
男子生徒2「おけー」
女子生徒1「場所は?クラスのメッセージグループ作ればいっか」
ぞろぞろと解散していく生徒たち。
かんな「ヤコちゃん、行く?」
夜子の前にかんな(明るめ栗色ショート前髪ピン留め)が立つ。
夜子「うーん、まぁ……一応ね」
乗り気じゃないが笑って見せる。
かんな「そっか、じゃあ一緒に行こ!また明日ねっ」
手を振りながら帰っていくかんな。夜子も手を振る。
夜子「うん」
(かんちゃん居れば安心だ)
○夜子家 (夜)
風呂上りの夜子。頭を拭きながらベッドに座る。
携帯が鳴り、手に取る夜子。
夜子「……やっぱり決まっちゃったか」
クラスのメッセージに店の場所が書いてある。
了解、楽しみ、OKなどスタンプが次々きて既読されていく。
夜子「とりあえず何か返そ」
はいっ、の猫スタンプを送った。
○土曜日 スイーツパラダイス店内 (16時)
急な親睦会だったが、クラスメイトの大体が揃っている。
男子生徒1「席てきとうに座ってっていいよな?」
女子生徒3「おっけーだよー」
男子生徒1「んじゃー、二年間よろしくってことで楽しもう!」
かんな「ヤコちゃんすーわろっ」(スウェット、デニムパンツコーデ)
夜子「うん」(フードワンピースコーデ)
奥の席を指差すかんなに夜子は頷いてついていく。
その途中、後ろから何かに掴まれ立ち止まる夜子。振り向く。
夜子「え……先崎くん?」
ちょこん、と夜子の服を掴んでいる優麗(オール黒コーデ)黒マスク姿も変わらない。
夜子「どうかした?」
優麗「……どこ座るの?」
夜子「一番奥の席だよ」
優麗「ふうん」
顔をそらしている優麗。夜子はクスッと笑って離れない優麗を連れたまま席にむかう。
かんな「およ?……背後に黒い影。えっと」
先に座っているかんなが首をかしげる。
夜子「先崎優麗くんだよ。一緒にいい?」
かんな「親睦会なんだし、どうぞどうぞ!」
四人席。かんなの隣(壁側)に夜子。夜子の前に優麗が座る。
かんな「ケーキ取ってくる!ヤコちゃんは?」
夜子「少ししたら行くっ」
かんな「承知。……先崎くんは?何かいる?」
優麗はふるふると首を横に振る。
かんな「そっか、じゃあ行ってきー」
二人になった夜子と優麗。
夜子「甘いものはあんまり?」
優麗「そうじゃないけど、こういう場だと食べる気うまれなくて」
どんより。
夜子「そ、そっか」
【気持ちはすごくわかる】
【やっぱり同士だ】
──時間経過。スイーツが並ぶ絵。
夜子「ちょっとお手洗い行ってくるね」
席を立つ夜子。
かんな「わかっはぁ」
食べながら頷くかんな。
優麗「……俺も」
静かに立つ優麗。
○店内 トイレ
手を洗いながらため息をつく。
夜子「はぁ……」
(先崎くんじゃないけど、ケーキがあまり入っていかない)
○店内 廊下
お手洗いの帰りに女子生徒が三人、前からやってきた。
女子生徒1「夜子ちゃんだよね?」
女子生徒2「なんかおすすめのケーキとかある?うちら王道ものばっか食べててさ」
3対1の立ち位置に顔が強ばるも笑って答える夜子。
夜子「え、えっと……チョコのビターケーキ、かな?結構苦めで……好き嫌いあるかもだけど」
女子生徒3「ビターかぁ、いいかも」
女子生徒2「ありがとねー」
手を振ってトイレに入っていく三人。
夜子はまたため息をつく。
夜子「……はぁ」
(何とか答えられた)
○店内 席
席に戻った夜子。
かんなはケーキを取りに、優麗もまだいない。
夜子は自分のケーキ皿を見つめる。
夜子「ゲームしたい……」
優麗「ゲーム?」
夜子はハッとして顔を上げる。
夜子「せ、先崎くんっいつの間に……」
優麗「今の間に。で?何のゲーム?」
頬杖をつく優麗。
夜子「えっと……格闘」
優麗は少し目を丸くする。
優麗「意外」
夜子(ですよねぇ……)
苦笑いの夜子。
優麗「何で格闘なの?」
夜子「こう……サバサバな人と話すのとか苦手で、ストレスがちょいとたまるというか」
優麗「それわかる。俺も陽キャ苦手だし」
クスッとほんのうっすらマスク越しに笑った優麗。
夜子は少し驚いた様子。
優麗「今度やろうよ、格闘ゲーム」
夜子「先崎くんもやるの?」
優麗「俺、割りと強いよ」
優麗は頬杖のままもう片方の手でピースをつくる。
夜子「じゃあ今度お手合わせね」
夜子は笑った。
○一週間後 休日(夕方) ショッピングモール前 外
遊んだ帰りの夜子とかんな。
かんな「んじゃヤコちゃん、また明日ね!」
笑って手を振るかんな。
夜子「また明日」
軽く振りかえしてお互い背を向けていく。
○帰り道
車や人が行きかうなか、少し前の警察署から出てきた男の人に目がいった。
片耳にピアスがたくさん。
ネックレスに指輪もしてある。
黒マスクに黒髪のハーフアップ。
夜子「……あ」
(こっちきちゃった)
道の隅の方に寄り、男から距離を取って進む。
足早にすれ違おうとした時、声をかけられた。
優麗「ヤ……黒羽さん?」
ついヤコ、と呼びそうになる優麗。
夜子は優麗を見て冷や汗。二人は向かい合う。
「え、あのっ……」
口ごもる夜子。
「ど、どちら様で……?」
完全にひきつった顔の夜子。
優麗は少し気まずそう。
優麗「あー……先崎、です」
夜子(え?)「……えっ!?」
辺りに夜子の声が響いた。