ワケアリ無気力男子になつかれてます
約束
○教室 昼休み
机を挟み向かい合う理と夜子。
夜子は驚愕し、理はニヤニヤしている。
夜子「え、えっと……」
理「先ちゃんの素顔が気になるの?」
【だから何でわかるんだろ】
【笑顔だけど怖い気もする】
夜子「いや、まぁ……お昼見かけたことないなぁなんて」
目を泳がす夜子に理は前のめりになる。
夜子「!」
理「先ちゃんはね」
至近距離に口を固く結ぶ夜子。
理「イケメンでーす!ぱちぱちっ」
夜子「……え、あぁ」
理「昼休みの謎はご本人からどうぞっ」
夜子の後ろに理は手を向けた。
振り向けば、夜子の真後ろに優麗がいた。
夜子(び……っくりした)
優麗「何が?」
理「ヤコちゃんが、先ちゃんのこと気になるって」
夜子「ちょっ、その言い方は語弊がっ」
理「うふふー昼休みどこかなぁって」
焦ってちらり、優麗をみる夜子。優麗は夜子の肩に手を置いた。
優麗「……今度ね」
夜子「は、はいっ」
優麗は席に戻っていく。
理はまだニヤニヤとして、顎に手を当てる。
理「ヤコちゃん、秘密がある先ちゃん魅力的に見えてきたでしょ?」
夜子「え」
夜子は目を丸くする。
優麗「……黒羽さんに変なこと言ってない?」
いつの間にか戻ってきた優麗が夜子の後ろまた立っていた。
理「やだなぁ何も変なことなんて――」
夜子「ちょっと変……かも」
理「えっ!?どこらへんが!?」
立ち上がり顔を夜子に近付ける理。
優麗「邪魔。むさ苦しい。うっとうしい」
理の顔面を手で押し返す優麗。
理「いやな三拍子!」
【やっぱりこの二人いいコンビだ】
○放課後 教室
各班に割り当てられた掃除を終えて、ぞろぞろと教室にクラスメイトが戻ってくる。
夜子はすでに戻っており、座って帰り支度をしていた。
理「ヤーコちゃんっ」
ぽんと夜子の肩を叩き、理は夜子の正面に回る。
夜子「藤田くん、どうかしたの?」
夜子が尋ねれば、理はポケットから携帯を取り出した。
理「連絡先教えてんっ」
語尾にハートがついてそうな言い方。
夜子「あぁ、うんいいよ」
夜子もまた携帯を取り出し、伸ばされた理の手に渡した。
理はなれた手付きで操作して夜子に携帯を返す。
理「はいっありがとうー!」
返された携帯をしまう夜子。
理「本当はクラスのグループから登録しても良かったんだけど、直接の方がいいでしょ?礼儀的に!」
夜子「うん」
理「じゃ、いっぱいお話しようね!バーイ!」
ブンブンと手を振りながら理は教室を出ていく。
夜子(わたしも帰ろ)
○夜子家 (夜)
リビングのソファでゲーム(携帯)をする夜子。
画面にはwinnerの文字。
夜子「ふぅ、少しやってないと負けそうになるな」
テーブルに置いてある煎餅を食べ、
"もう一回"のボタンを押そうとした時、
携帯にメッセージが届く。
夜子「かんちゃんだ」
"今日、藤田くん来て賑やかになったね!"
かんなのメッセージに、夜子は"うん"と"面白いよね"と返信する。
かんなからは"だよね"のスタンプ。
同時に理からもメッセージが。
"改めてよろぴく"
"仲良ししようね!"と。
夜子「仲良ししよう……?ま、まぁそうだよね」
"こちらこそ"と夜子は返信する。
速攻で理から
"先ちゃんもね!"
"珍しく、先ちゃんが女の子と話してるから"
"僕びっくりした"
夜子(それはあれじゃない?……初日とか警察署の話とかのおかげ?かな。言わないけど)
「なんて返そう……」
考えていると、またメッセージがくる。
夜子「ん?……えっ!?おわっととっ」
メッセージの主――先崎、の名前に携帯を落としそうになった夜子。
夜子「な、なん……え?と言うかいつの間に登録されてたの!?」
"僕っ"とタイミング良く、理からメッセージ。
夜子(……さっきか)
理に携帯を渡した時だと、メッセージを見ながら腑に落ちた夜子は訝しげな顔をした。
【藤田くん、色々読まれすぎてこわいな】
【なんか能力を持ってるんじゃないの?】
なぜか理から"てへっ"と送られてきた。
夜子「……先崎くんに返そ」
"よろしく"
シンプルな優麗。
優麗らしいメッセージに夜子の口が緩む。
夜子「先崎くん、って感じっ」
"こちらこそよろしくね"
と夜子が返せば、
"うん"だけ。
夜子「……そう言えば、スイパラの時に先崎くんと格闘ゲームする約束したんだよね」
夜子は優麗に、"ゲーム、今度しようね"と返せばすぐにまた、"うん"
夜子「先崎くん、覚えてたっ」
物凄く簡潔な返事とやり取りに、夜子は笑みがこぼれた。
○教室 (朝)
夜子が教室のドアを開けた時、優麗の姿がある。
日直で早く来た夜子よりも早く。
優麗以外に誰もいない教室に夜子は入る。
夜子「おはよう先崎くん」
優麗「おはよ」
優麗は机に軽く伏せながら、ゆるく手を振る。
椅子に座り日誌を机に広げる夜子。
夜子(先崎くん、普段こんなに早いのかな?)
伏せたままの優麗を一瞥し、日誌を書き始める。
【今日の天気は……くもり、っと】
窓をちらっと見て記入していく夜子の席の前の椅子が引かれるのが目に入り顔を上げる。
優麗は椅子を反対に座り、夜子に向く。
夜子「……どうかした?」
優麗「それ書き終わったら例の、やろうよ」
【例の――】
夜子「ゲーム?」
優麗「うん」
携帯を手に、優麗は頷く。
夜子なシャーペンを持ちながら、もしかして――と思う。
夜子「先崎くん、ゲームをするために早く来てくれたの?」
優麗「今日ちょうど、黒羽さん日直だったから。早く来れば出来るかなって」
教室静かなうちに、と黒板に書かれた夜子の名前をさしながら優麗は言う。
夜子(そうか……わたしが日直だから……)
夜子はすぐに日誌を閉じた。
優麗「え、書かないの?」
夜子「日誌はいつでも書けるけど、静かな時間は少しだけでしょ?」
夜子は鞄から携帯を取り出す。
優麗「やる気満々じゃん」
夜子「誰かとしたことないの。いつもcpu相手だから」
お互いに格闘ゲームの画面を開く。
優麗「お手並み拝見だね」
夜子「負けないように頑張りますっ」
画面の、fight!の合図に二人は約束のゲームの時間を過ごす。
20分経過し時計が7時50分を回った――
優麗の画面にはLOSE……の文字。
反対に夜子にはWINNER!の文字。
優麗は携帯から顔を上げて夜子を見た。
優麗「……めっちゃ強いじゃん」
夜子は笑ってピースサイン。
優麗「俺、勝つ自信あったのにな」
夜子「先崎くんも凄かった。何回か負けちゃいそうだったし」
むむっとする優麗。
だがざわざわと廊下から聞こえてくる声に優麗は立ち上がった。
優麗「そろそろか……」
夜子「うん、ありがとう楽しかった」
優麗はフッとマスク越しに薄く笑う。
優麗「リベンジさせて。次やる時はもっと腕磨いとく」
夜子は驚いた顔をするも、すぐにふわっと笑みを見せる。
夜子「うんっまたやろうね」
優麗「うん」
夜子に頷いて席に戻った優麗。
夜子は両手で携帯を握る。
夜子(すごく楽しかった……)
再び机に伏せている優麗を見つめる。
【日直だったから――】
夜子(合わせて来てくれたってことが嬉しかった。それに……)
【リベンジさせて】
夜子(次も、あるんだ……)
「……楽しみだなぁ」
夜子は小さく呟いた。
続々と登校してくる生徒に少しずつ賑やかになってくる教室。
朝の挨拶が飛びかう中、理の声が大きく響いた。
理「あら!先ちゃん、珍しい!僕今日早起きしたから来たのに……負けた」
来て早々に理は優麗へ絡み、鬱陶しそうな優麗。
何で早いの?ねぇねぇ、とニマニマする理に優麗は顔を反らしている。
優麗「朝からやめて……あっち行け」
理「先ちゃん朝からドライ!」
二人の会話を耳にしながら夜子は、途中にした日誌を書いている。
不意に顔を上げた時、理と目が合う夜子。
笑顔で手を振る理に、少しぎこちない笑みを返した。
○放課後
日誌を閉じる夜子。
夜子(よし、終わった。後は帰りに出すだけ――)
立ち上がった夜子に二人の女子生徒が歩み寄る。
それを未だ座ったままの優麗は頬杖をつきながら横目で見ている。
女子生徒1「ねぇ夜子ちゃんーお願いあるんだけど!」
夜子「お願い?」
女子生徒2「掃除変わって欲しいの!新しく出来たクレープ屋行きたくてっ」
女子生徒1「人気で混んでるって聞いてさ」
なるべく早く並びたいの!と二人に手を合わせられる夜子。
女子生徒1「ダメ、かな?」
夜子「全然っ。美味しいクレープ食べてきてね」
夜子は頷きながら胸の前で手を振る。
女子生徒たちは嬉しそうにしながら足早に教室を出ていく。
夜子(つい、引き受けちゃった)
日誌の横に鞄を置いて、夜子は掃除ロッカーへ向かおうと振り向いた時、箒を二本持った優麗。
夜子「え……あ、ありがと。でも……先崎くんはいいんだよ?引き受けたのはわたしだし」
優麗「俺も聞いてたからやる。一人にやらせるの、良くないと思うし」
優麗は黒板の方へ歩き出し掃き掃除をやりはじめる。
その姿を見つめる夜子。
夜子「先崎くん」
手を止めて夜子を向く優麗。
夜子「ありがとう」
優麗「うん」
夜子「先崎くんも何かあったら言ってね。その時はわたし手伝うから」
にこり、夜子は笑う。
優麗「わかった」
朝と同じ空間。教室で掃除をする二人。