ワケアリ無気力男子になつかれてます
二人のこと


○駅前 (昼)

翌週――ゴールデンウィーク最終日。

人混みをかき分けて、駅の改札口を出てすぐ夜子はキョロキョロする。

夜子「あっ」

警察署で見た姿に近い優麗が、人混みがはけた場所にいるのを見つける夜子。
駆け寄る夜子に気付き、優麗は軽く手を上げて笑みを見せる。

優麗「早いね」

夜子「こっち方面、あまり来たことなくて……早めに。先崎くんこそ、早いね」

優麗「黒羽さん、早く来そうだなぁと思って、俺も早めに来た」

夜子「二人して早かったね」

優麗「うん、待たせたりしなくて良かった。……じゃ、とりあえず行こっか」

夜子「うん」


【ゴールデンウィーク前日の夜──】

【先崎くんの連絡から、今に至る】


○回想 夜子家(寝る前)


自室の床に座り、パジャマ姿でドライヤーをかける夜子。
夜子の足元にある携帯が光っていたことに気付き、ドライヤーを止め携帯を手に取る。

優麗からのメッセージが画面に。


"ゴールデンウィークって予定ある?"

夜子は優麗からのメッセージに驚き、目を見開く。

夜子「えっと……」

部屋の壁にあるカレンダーを一瞥して、優麗への返事をうつ。


"かんちゃんと遊ぶくらいかな"

送信すれば優麗からのすぐに返事がくる。

"最終日、空いてたら"

"店に来ない?"

「……先崎くんからのお誘い」

夜子の口が緩む。

"行きたいです!"


回想終了


○優麗家前


一軒家の左側に小さな平屋がある。平屋の看板は英語の繋ぎ文字で SENZAKI (HEARTマーク付き)

優麗「こっちが俺の家で、隣にあるのが店ね」

夜子「隣にお店って凄いね」

優麗「そう?ちょっと看板のハートはずいけど」

夜子「どんなお店なの?」

優麗「主にアクセサリーだけどキーホルダーもある。……とりあえず入ろっか」



○店内

レンガ風の壁紙の店内に数人のお客がいる。

木製のテーブルが幾つもあり、そこには
アクセサリーやキーホルダーが沢山並んでいる。

夜子「凄い……全部手作りなんだ……」

優麗「趣味が形になってるからね一応だけど」

キョロキョロとする夜子に可愛らしい格好をした人が声をかける。
(明るい栗色ロングウェーブヘアにカチューシャ)


綺麗な人「ゆっくり見ていってね!」

夜子「あ、はいっ。ありがとうございます」
(美人さんだ……)

微笑まれ夜子は頭をさげると、綺麗な人は夜子の後ろの優麗を見つける。

綺麗な人「……あら、優麗来てたの?」

夜子(え、先崎くんの知り合い……?)

優麗「その子、俺が連れてきた子」

綺麗な人「え?……えっえっ?」

夜子と優麗を交互に見る綺麗な人。
夜子の顔に汗。

綺麗な人「うっそ!本当に!?」

優麗「本当に」

綺麗な人「やだぁ!先に言っといてよ!もう」

優麗の肩を叩き、綺麗な人は夜子に向く。


望「優麗の"姉"で、先崎望(のぞみ)ですっ宜し──」

優麗「俺の"一応兄"で、先崎望(のぞむ)です」

望「ぶぅ……いいじゃないそのくらいっ」


膨れっ面の望。


優麗「普通にダメだろ」


夜子は優麗と話す望を見る。

【この人が、先崎くんのお兄さん──】

【お兄……完全に見た目はお姉さんだけど】


夜子「え……っと黒羽夜子です。宜しくお願──」

望「うん宜しく!というか優麗が理ちゃん以外に友達……しかも女の子なんてはじめて!可愛いし!どゆこと!?」

優麗「どうって……仲良し?」

夜子に顔を向けて聞く優麗。

夜子「そ、そうだねっ」

頷く夜子を見た望は、意味ありげに優麗を見つめる。

望「でもあんた……」

優麗「黒羽さんには言った。広めるような子じゃないよ」

優しく答える優麗。
夜子と目が合う望は夜子の手をとる。

望「玄関入ってすぐの階段上がって右が優麗のお部屋でっす!」

夜子「えっ」

優麗「何勝手にばらしてんの」

望「いいじゃない!」

優麗「まぁいいけど」

夜子(いいんだ……)

望「私は接客あるけど、優麗のお部屋で楽しんでっ」

じゃ!と手を振りながら接客に戻る望。


夜子(えっ、わたしあがるの?お店だけじゃ……)

予想外のことに目を丸くする夜子。



○優麗 部屋

ベッドと折り畳み式のテーブル、タンス。シンプルな部屋。


お盆にのる二つのグラスにはお茶。

夜子(結局お邪魔してしまった……)

正座する夜子に、優麗は胡座。


優麗「あー……特に何もない部屋でごめん」

夜子「そんなっお邪魔しちゃってこちらこそごめんね?」

優麗「いや、全然いいよ。親留守だし。と言ってもすることがなぁ……あ、そうだ。俺話すことあった」

夜子「話すこと?」

夜子が首を傾げ、優麗は俯く。

優麗「うん。俺、元は不良だって言ったじゃん。でもそれしか言ってないからさ……」

夜子「わたし聞いていいの?」

優麗は間を空けて頷き、話し出す。

優麗「中学ん時は、学校自体が荒れたとこで……まぉ俺も毒されたというか、流れみたいなものでヤンチャになって。喧嘩とかしたことなかったけど、腕っぷしはそれなりだったみたいで、気付いたら学校の一、二を争うような奴に自分がなっててさ」

グラスから水滴が落ちていく。

優麗「毎日のように突っかかってくる奴ら相手にしてたら、帰り道とかで集団に囲まれて、俺対数十人……みたいなこともあったりで」

夜子「でも、それって卑怯じゃ?」

優麗「思うけど、不良にとってはザラだよ。何回あったかわかんないし……まぁ、卒業までそんな日常を送ってた俺の黒歴史があるってわけ」

優麗が少し顔を上げる。

優麗「だから高校は俺のことを誰も知らないとこに……って思ってたら兄貴が店やりたいって言って、この家に越してきて。おかげで中学から離れたけど……それでも俺は遠めの高校を選んだんだ」

夜子(そうだったんだ……)

優麗「マスク外さないのも万が一のためで……でも何故か入学早々同じクラスだった藤田にはバレてたっていうか、知ってたんだよね。俺の元不良時代」

夜子「藤田くんが?」

優麗はなんとも言えない表情で続ける。

優麗「……その瞬間、俺の高校生活終わったって思った。だから警戒してたのに、変にいい奴でさ、俺に誰にも言わないよって」

そのまま優麗は続ける。

優麗「とりあえず様子見てたけど、本当っぽいから、つるむようになったって感じ。でも藤田には俺の口からは何も教えてないけどね」

夜子「え?そうなの?てっきりわたしは、藤田くんには伝えてあるのかと……」

優麗「いや、アイツ多分言わなくても全部知ってる。たまに、心読まれてる?的なことあるじゃん?」

夜子「あぁ!あるある!鋭いというか……」

前のめりになる夜子に優麗は笑う。

優麗「何モンだよお前はって感じのときね。鋭いってだけじゃ言い表せない変な奴だけど、俺が信用してんの。アイツだけ」

夜子「二人、仲良しに見えるもんねっ」

にこっと笑う夜子。

優麗「……って思ってたんだけど、もう一人。黒羽さんのことも俺は信用してるよ」

夜子を見据える優麗。

優麗「何でって言われると……最初の印象からかな、とは思う。不良時代に色んな奴見てきたからか、この人は無理。この人は大丈夫、みたいなのが雰囲気でわかるんだよね」

優麗はグラスを手に持つ。

優麗「それで黒羽さんと話すうちに、人柄もわかってきたし……警察署の件もあったから、自分のこと話せるかもって。だから俺が自分から不良話したのは黒羽さんがはじめて」

一口、お茶を飲んだ優麗。

優麗「まぁ、聞きたくなかったかもしんないけ──」

夜子「そんなことないっ!話してくれて凄く嬉しいよ、わたし」

優麗「……そう言ってくれるって思ってた」

夜子「わたしも何かどーん!と大きい話があればいいんだけど……あいにくこんなんだから何もなくて」

優麗「なら俺、一個聞いていい?」

夜子「勿論」

優麗「夜子……って呼ばれるの嫌だったりする?」

夜子の目が見開かれる。

夜子「……どうして?」

優麗「なんとなく。他の人が名前呼びした時、顔が強ばってるように見えてたから……」

夜子(先崎くんは、自分のことを話してくれた。……わたしも──)

優麗「無理に答えなくて大丈夫──」

夜子は首をふる。

夜子「ううん、わたしも自分のこと先崎くんに聞いてもらいたい。……聞いてくれる?」

優麗「勿論……」

夜子「わたしね、小学生の頃同じクラスだった子に、ある日あだ名をつけられたの。でもとても喜べるあだ名じゃなかった──」

夜子は目を伏せる。

夜子「黒羽 夜子は──黒魔女、闇子(やみこ)……夜になると黒い羽がはえる魔女になる……黒魔女が夜に産んだ子供。だから夜子なのだと」

まっすぐ、夜子を見つめ話を聞く優麗。


夜子「子供って良くも悪くも純粋だから、変に信じられちゃって……怖がられたりしたの。黒魔女や闇子と呼ばれるうちに、性格まで暗くなって、わたし髪黒いし……」

夜子は段々とうつ向いていく。


夜子「名が体を表すってまさにこのことだよ──」

自虐的に笑う夜子を優麗は夜子の手を掴み制す。

優麗「わかった」

夜子は優麗に薄く笑みを作る。

夜子「……だからね、先崎くんが感じてたわたしの顔が強ばってるっていうの、当たってる。わたし、自分の名前……好きじゃないから。またあだ名で呼ばれたりしたら怖くて……」

優麗「……」

夜子「……ごめん、暗くなっちゃったね。せっかくお家上げてもらったのに」

優麗「俺──」

望「よっるこちゃーんっ!」

突然思いきり開けられたドアから、望が入る。
静かに望を睨む優麗。

優麗「タイミングくそ悪ぃんだけど」

望は腰に手を当てる。

望「もう、あんたまたそんな言葉遣いして……夜子ちゃんに嫌われるわよ?」

優麗「全部話したし全然嫌われないって自負してっからいいし……つか、勝手に入ってくんな」

望「優麗が変なことしてないか!怪しい本やら何やらはないか、心配になっちゃって」

優麗「変な事も変な本もねぇし。店戻れよ」

優麗は立って望の背中を押しながら部屋の外へ追いやる。

望「あーん!夜子ちゃんまたねー!」

夜子「あはは……」

優麗は溜め息をつく。



○駅前

待ち合わせした場所に立つ二人。


夜子「今日はありがとう。お店よりお家に長居してしまって……」

優麗「全然。またおいでよ。俺も店番してたりするからさ。ちょっと遠いと思うけど」

夜子「うん、また是非。じゃあまた学校でね」

優麗に背を向け歩き出す夜子。
だが、夜子の手をすぐ追いかけて掴む優麗。

優麗「ちょい待ってっ……」

驚いて振り向く夜子を優麗は見据える。

優麗「俺は……黒羽さんの名前いいと思う。あだ名のせいで自分の名前が嫌いってんなら、そう思わなくなるくらい俺が名前呼ぶ」

夜子「っ……」

優麗「……呼んでいいなら、だけど」

【ああ──胸が熱い。心臓が速いせいかな】

【名前が嫌いだから呼んで欲しくないと思っていたのに……わたし──】

夜子は潤む瞳で優麗に頷いて見せる。

【先崎くんには、呼んで欲しいって思っちゃった】

優麗「普通に夜子さん?あっ夜は?でもこれもあだ名になるのか……」

夜子(よる……呼ばれたことないけど)
「ううんっ、夜がいいかも」

優麗「そう?じゃあ……夜にする。とりあえず二人の時に呼ぶね。急に変えると藤田とか周りがなんか言いそうだし」

夜子「同感っ」

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