【長編】寂しがり屋たちは、今日も手を繋いだまま秒針を回した
 急にその感情が顔を出したのが分かった。最近、症状が出る頻度が多くなっている気がする。私は靴を脱いで、玄関のすぐ前の廊下でうずくまる。

「大丈夫。寂しくないよ」

 一体、人生で何回この言葉を言えばいいのだろう。その時、四人で遊びに行った日の夜に見た夢が頭をよぎった。

「大好きよ、奈々花。寂しくなんかないわ。お母さんとお父さんは奈々花が大好きだもの」

 あの夢の言葉を思い出すと、症状が治っていく感じがした。それでも、まだ寂しくて。
 その時、玄関の扉が開く音がして振り返るとお母さんが立っていた。

「おかえり、お母さん……」
「ただいま、奈々花。どうしたの?症状が出た?」

 お母さんはうずくまっている私に合わせて、廊下に腰を下ろした。

「大丈夫よ。お母さん、奈々花が大好き。寂しくなんかないわ」

 私の症状が出た時はいつもお母さんも「寂しくない。大丈夫」と言ってくれる。それが私が一番安心する言葉だと知っているから。
 いつもの言葉。いつもの症状を和らげるための言葉。でも、何故か同じ言葉でもあの夢の言葉の方が安心出来た。

「お母さん、本当に私のこと好き?」
「え……?」
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