【長編】寂しがり屋たちは、今日も手を繋いだまま秒針を回した
 まず小さなぬいぐるみをバッグに入れておいて、お母さんと手を繋いでいるイメージをしながら手を繋ぐ。
 もう一つは「寂しくない。大丈夫」と心の中で唱えることだった。なんとか誤魔化しながら毎日を過ごしても、自分が成長している感覚はなかった。

 その時、教室が急に騒がしくなる。

「あ!菅谷、おはよう!相変わらず来るのおせーよ!」
「悪ぃ。寝坊した!」

 教室に登校した菅谷くんに数人の男子生徒が集まって話しかけに行っている。
 入学して一週間。菅谷くんが人気者であることは、クラスメイトの誰もが分かっていた。

「菅谷、数学の宿題終わってる?」
「あ、やべ。終わってない!誰か見してくれね?お礼にこのお菓子やるから!」
「食べかけじゃねーか!」

 明るくて、ノリが良くて、まさに人気者。彼の周りには、いつも人が絶えない。それでも、入学式の菅谷くんの苦しそうな顔が私は忘れられなかった。
 その時、担任の川北先生が教室に入ってくる。

「ホームルーム始めるぞー」

 クラスメイトが次々に自分の席に座り始める。また今日の朝も私は菅谷くんに声をかけることが出来なかった。

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