【長編】寂しがり屋たちは、今日も手を繋いだまま秒針を回した
 菅谷くんは私の手をもう一度強く握って、「寂しくない」ともう一度言った。

「川崎さんがさっき『まだ車にいるからすぐに帰る』って嘘をついたでしょ?」
「うん……」
「でも、それを嘘っていうか優しさっていうかは人それぞれだと思う。俺は川崎さんの優しさだと思った」

 菅谷くんが「俺だって川崎さんに迷惑ばっかかけてるよ」と笑った。

「そんなことない……!」
「……じゃあ、川崎さんも一緒だよ。迷惑じゃない。川崎さんが俺を迷惑じゃないと思うのと一緒」

 ずっと壊れかけていた。
 高校の入学前の目標で「周りの人にこれ以上迷惑をかけないこと」と立てるくらい迷惑をかけることが怖かった。周りの人に優しさを貰っても返せないことが苦しかった。
 それでも、今、目の前に「迷惑じゃない」と笑ってくる人がいる。
 何も菅谷くんに言葉を返せないまま、私はしばらく泣き続けた。私の嗚咽混じりの鳴き声が響いている。どれくらい泣いていただろう。

「川崎さん、雨止んだよ」

 私が窓から外に目を向けると、雨が止んで雲の間から日差しが差し始めている。涙はもう止まっていた。

「そろそろ帰ろっか。川崎さんは電車?」
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