【長編】寂しがり屋たちは、今日も手を繋いだまま秒針を回した
 症状が出ている時間は終わらないのではないかと思うほど長く感じるのに、病気になってからの日々を振り返れば短く感じる。誰にも止められていないのに、私が絵を書くことが許されていない感じがしていた。でも、違う。きっと好きなことくらい好きな時間にすればいい。
 早く帰ろう。私は雨上がりの濡れたアスファルトを早足で歩いて行った。


「出来た……」

 雨で練習試合がなくなった翌日。今、私の前の机には色鉛筆で絵が()かれた一枚の小さな画用紙が置かれている。病気が発症してから初めて完成させた絵だった。
 久しぶりで色鉛筆の使い方も前より下手になっているのに、あの日の帰り道に見た光景を絵で残せたことが嬉しかった。あんなに絵を描くことが怖かったのに、描き始めたらすぐに終わってしまう。筆を持つことが怖くて重く感じていたはずの筆は持ってしまえば、軽いものだった。
 つい画用紙に指で触れてしまう。ずっと触れなかった「自分の描いた絵」に今、触れている。表し方の分からない感情が心の奥から顔を出した気がした。それでも、それが嫌な気持ちではないことは確かだった。

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