【長編】寂しがり屋たちは、今日も手を繋いだまま秒針を回した
 私は練習のために小さめの画用紙を取ってきて、自分の前の机に置いた。筆を持つのは久しぶりで、絵の具を筆につけると一気に美術部に戻ったという感覚が襲ってきた。
 その感覚がまだやっぱり何処か怖いのに、嬉しさが混じっている感じもして不思議な感覚だった。紙に筆をつけると、当たり前だが色が紙に落ちた。美術部の部員としてその光景を見ていることに目が潤みそうになる。
 あと残り部活が終わる時間まで一時間ほど。説明をしてもらっていた分、今日の残り時間は少なかった。それでも一度描き始めればあっという間で、一時間とすら思えないほどに時間ははやく過ぎてしまう。
 気づけば、チャイムの音が鳴っていた。その音で集中が切れて、顔を上げた。

「川崎さん、そろそろ帰ろ!」

 美坂さんにそう言われて、私はすぐに画材を片付けた。画材を片付けて、校門のところまで美坂さんと歩いていく。

「川崎さん、今日自転車?」
「ううん、電車。美坂さんは?」
「私は今日の朝、雨降ってたからバスなの」

 バス停は高校のすぐ目の前にある。私と美坂さんは自然に校門で別れる流れになった。

「じゃあ、また明日」
「うん、またねー」

< 167 / 189 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop