【長編】寂しがり屋たちは、今日も手を繋いだまま秒針を回した
「じゃあ、信頼してもらえてるってこと?」
「……?」
「だって川崎さん、両親といる時は症状が出にくいでしょ?だから、俺らのこともちょっとは信頼してくれてるのかなって」

 その時、サッカー部の顧問の先生が「集合ー!」と部員を集め始めた。

「ごめん、もう行く」
「うん」

 私は菅谷くんと別れた後、部室に戻った。私が部室に戻ると、美坂さんが「おかえり!」と笑ってくれる。「ただいま」と返しながら、席に戻るともう症状は完全に(おさ)まっていた。

 それはきっと美坂さんの顔を見たからで。

 症状が最近出ていなかったのは、部活が忙しかったことと「美坂さんが隣にいて絵を描いていたから」なのだろうか。ずっと減らなかった症状が減り始めている。そのことを意識したら、喉の辺りが苦しくなって自分が泣きそうなことに気づいた。

 「ちゃんと進んでいるよ」と心が教えてくれている感じがした。

 私は溢れそうな涙をぐっと堪えて、目の前の絵にもう一度向き合う。
 ちゃんと描き切ろう。

 絵の中には菅谷くんと草野くんが描かれていて、描いているのは私で、描いている私の隣には美坂さんがいる。
 その記録を、この嬉しさを、この感動を、この絵に残そう。私は筆を持って、絵を描くのを再開した。

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