【長編】寂しがり屋たちは、今日も手を繋いだまま秒針を回した
 充実した高校生活……そんなものを送れるのはどんな人だろう。少なくとも私じゃない。入学式を普通に過ごすことすらままならない私は、これからどんな高校生活を送るのだろう。

「続いて、閉会のことばを……」

 早く、早く、終わって。
 退場の時に整列して歩くスピードが遅く感じて、じんわりと汗が滲んだのが分かった。教室に戻ると担任の先生が教壇から大きな声で呼びかける。

「では、15分の休憩の後に明日の流れを説明します」

 休憩が始まり、ぞろぞろと生徒が席を立ち始める。私は急いで人気(ひとけ)のない場所を探して走った。
 両親は入学式に来ているが「寂しい」が出た時の会話を他の生徒に聞かれれば、おかしい人だと思われても不思議じゃない。電話をかける?それとも、バッグからぬいぐるみを取ってきて……何も考えはまとまらないのに、私は足早に誰もいない場所を探していた。
 しかし、新入生なので校舎の造りが分からない。とりあえず、先ほどの体育館に向かう道のりで誰もいない廊下があった。私はその場でうずくまり、自分に声をかける。


「大丈夫。寂しくない。寂しくないから」


< 2 / 189 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop