【長編】寂しがり屋たちは、今日も手を繋いだまま秒針を回した
 心配でいつもより沢山話すお母さんの言葉を最後まで聞いていると、病気になってから外泊したことがないことに気づいた。病気に慣れていなかった中学は、修学旅行すら参加出来なかった。

「それと、奈々花」
「ん?」
「折角だから、出来るだけ楽しんできなさい」

 その言葉に私は頷いて、玄関の扉を開けた。

「行ってきます」

 「行ってらっしゃい」と返したお母さんの声が少しだけ震えている気がして、もう一度「大丈夫だよ」と言うために戻ろうかと思ったがすぐに思い直す。
 きっと今戻って「大丈夫」と言っても、お母さんは安心出来ないだろう。だって本当に私を心配してくれている。
 だから、ちゃんと無事に帰ってきて笑顔で「ただいま」と言おう。きっとそれが一番な気がした。
 空を見上げると太陽が眩しいような快晴で、それがどこか嬉しかった。

 高校に着くと、もう20人ほど来ていた。担任の先生にまず出席を伝えないと。川北先生に近づくと、先生がすぐに私に気づく。

「川崎、おはよう」
「おはようございます」

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