【長編】寂しがり屋たちは、今日も手を繋いだまま秒針を回した
 菅谷くんが本当に体調が良かったのか、無理をしていたのかは分からない。もし体調が良かったのなら、それ以上に良いことはないだろう。ただもし菅谷くんが無理をしながらチェックをしたのなら、それは辛い中で平静を装うのに慣れすぎているのかもしれない。
 菅谷くんが私から離れた後、先生は私に「川崎、何かあったらすぐに言うんだぞ。無理はするな」と言ってくれた。
 病気を伝えている人からは気を遣われる。教えていない人からは配慮されない代わりに、普通の対応をしてもらえる。それは当然のことだと分かっているつもりだ。
 分かっているのに……誰にも辛さを共有していない菅谷くんは誰の前で弱さを見せれるというのだろう。
 隣に誰もいないバスの中は考え事をしてしまう。騒がしいバスの中で私は大きなバッグを隣の席に置いて、バッグの取っ手を掴んでいた。何かを掴んでいる時は、症状が出にくい。
 二時間ほどのバスでの移動中、私は眠ることも出来ないまま窓の外の風景を見つめていた。

「着いたー!」
「めっちゃ長かったんだけどー」
「俺、腰いてぇ!」
「あはは、お爺ちゃんじゃん!」

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