【長編】寂しがり屋たちは、今日も手を繋いだまま秒針を回した
 私の手のひらには先ほどの貝殻と合わせて二つの貝殻が並んでいる。

「なんかね、あの入学式の時にちょっと川崎さんと話したくなったんだ。だって体調が悪いのに顔を上げるなんて、この人絶対に律儀な人だって思って」

 美坂さんが私の手に乗っている二つの貝殻から一つをそっと手に取る。

「これでお揃いだね!」

 誰とも関わらないと決めた高校生活で……誰とも関わらないと決意した入学式で、私を見てくれていた人がいる。それが言葉にならないほど嬉しいのに、素直に喜ぶことに慣れていなくて上手く言葉に出来ない。
 そんな私を見て、美坂さんは私が機嫌を損ねたと思ったようで慌てて私の手からもう一つの貝殻も掴んだ。

「勝手にお揃いとか嫌だった……?」
「ちがっ……!」
「違うの?」

 明かせない「頻発性症候群」という病気。そのせいで私はそれ以外にも沢山の気持ちを隠して、諦めようとしている。
 でも、きっと全てに嘘をつく必要はないのかもしれない。この嬉しくて泣きそうな気持ちをなかったことにするのが正しいとはどうしても思えなかった。

「……お揃いの貝殻が嬉しくて……美坂さん、ありがとう」

< 38 / 189 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop