【長編】寂しがり屋たちは、今日も手を繋いだまま秒針を回した
「大丈夫。寂しくないよ。全然寂しくない」

 そう問いかけても、症状はなかなか(おさ)まっていかない。
 先ほどまでが楽しすぎたのかもしれない。周りに人がいて、私と接してくれて、それで楽しかった。急に一人になり、症状が出やすくなっている可能性がある。
 すると、お米の入っている容器から水が溢れ出しそうになっていることに気づいてすぐに水を止めた。
 どうしよう。もっと人がいない場所に行って、入学式の時みたいにうずくまって自分で自分をギュッと出来る場所に行く?
 でも班に戻るのが遅ければ、優しいあの三人なら私を探しにくるかもしれない。

 急がないと。急いで「寂しい」を抑えないと。

 しかし、焦れば焦るほど気持ちが落ち着かなくて、症状も(おさ)まってくれない。私は水の止まった蛇口を見つめながら、ぬいぐるみを握る手に力を込めた。
 小さくて手を握れる大きさではないぬいぐるみでは、お母さんと手を繋いでいるイメージを持つことが出来ない。それでも、ぬいぐるみを握らない方が症状が悪化する気がして、私は両手でぬいぐるみを握りしめた。

「川崎さん?」

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