【長編】寂しがり屋たちは、今日も手を繋いだまま秒針を回した
七章
 自由行動が終わって宿舎に着いた私たちは、まず夕食を取った後に入浴時間がある予定だった。そしてその後、各自の部屋で消灯時間まで自由時間という流れである。私の部屋は大部屋で十人ほどの女子生徒が泊まっている。

 二人部屋や三人部屋より会話に悩むことはないが、症状が出たら大部屋はとても困る。その時丁度、お母さんから「オリエンテーションはどう?大丈夫?」と連絡が来ていることに気づいた。就寝前に一度お母さんに電話をかけようか。そうすれば、きっとお母さんも私も安心出来るだろう。
 入浴を終えた私は大部屋には戻らず、人気(ひとけ)の少ない……いや、誰もいない場所を探していた。
 宿舎の外に出れば先生に怒られるだろうが、宿舎の庭園であれば良いだろうか。街灯もあるし、宿舎が隣にあるので私自身もあまり怖くない。
 私は庭園に出た後、人目につきにくい場所を探して移動する。その時、庭園の隅でうずくまっている人影が見えた。

「わ!」

 驚いて声を上げた私にうずくまっていた人陰が動いた。

「菅谷くん!?」
「川崎さん……?」

 菅谷くんはもう顔を上げることすらやっとで、私を(おぼろ)げな視線で見ている。正直、入学式の時より調子が悪そうだった。
 私は慌てて菅谷くんに駆け寄った。

「大丈夫!?」

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