【長編】寂しがり屋たちは、今日も手を繋いだまま秒針を回した
 美坂さんが嬉しそうにクッキーの袋をリュックにしまっている。

 それからしばらくすると、眠っている生徒が段々増えていく。隣の席を視線を向けると、美坂さんも眠ってしまっていた。周りは寝ている生徒ばかりなのに、私は何故か眠ることが出来なかった。
 きっと無事に新入生オリエンテーションが終わったことが嬉しかったのだと思う。私の体調が悪くなったり、菅谷くんの苦しみも知ったオリエンテーションだった。それでも、振り返れば「楽しかった」と言えるオリエンテーションだった。それが無性に嬉しくて。
 オリエンテーションに行くとお母さんに伝えた時、私はこう言った。

「お母さん、ちゃんと『楽しかった』って言えるように頑張ってくる」

 その言葉を叶えられるなんて本当は思っていなくて、ただお母さんを安心させたくて出てきた言葉だった。隣で眠っている美坂さんに視線を向ける。私はきっと恵まれ過ぎているくらいに優しい人に囲まれている。それでも、まだ自分が関わることで周りの人に迷惑をかけることが怖かった。


「ねぇ、川崎さん。きっと俺は寂しくて壊れるんだと思う」


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