【長編】寂しがり屋たちは、今日も手を繋いだまま秒針を回した
九章
 オリエンテーションが終わって、二週間。夜八時頃、自室で勉強していると私のスマホに菅谷くんから連絡が入っていた。
 オリエンテーションで班になった時に四人で連絡先を交換したが、グループで連絡を取ることはあっても菅谷くんから個別で連絡が来たのは初めてだった。

「俺、病院に行こうと思う」

 その一文を送るのにどれだけ勇気がいったのだろう。私では想像もつかないほど悩んだに決まっている。
 なんて返すのが正解か分からないまま、私は「そっか。話を聞くことは出来るから、いつでも頼ってね」とスマホに文字を打っていく。私はそのまま送信ボタンを押そうとしたが「頼ってね」を最後に「頼ってほしい」に変えて、送信ボタンを押した。
 そんな小さな語尾の違いなんて何も変わらないことは分かっている。それでも、「頼ってほしい」と思ったのだ。菅谷くんの力に少しでもなりたかった。
 しばらくして、スマホがピコンっとなった。私はすぐにスマホを開いた。

「ありがと。今週の土曜日に病院に行くからまた連絡するかも」

 私はなんて返すかしばらく悩んだが、無難な「OK」と書かれているスタンプを送った。だってきっとどんな文字を送っても、今の菅谷くんを助ける言葉はかけられない。この後また私に連絡するかは菅谷くんが決めることだ。
 私は机にスマホを置いて、勉強を再開した。
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