【長編】寂しがり屋たちは、今日も手を繋いだまま秒針を回した
「このオリエンテーションはとても楽しく、思い出に残るイベントだった」

 文字にすると何処か嘘っぽくなるけれど、これが本心だった。
 私は感想の紙を教卓の前に座っている先生のところに持っていく。それから自分の机に戻る時に、ちらっと菅谷くんに視線を向けた。
 菅谷くんは感想を書きながら、後ろの席の男子生徒に小声で声をかけられている。声は聞こえないのに、二人の笑い声を堪えようとする表情に楽しそうな雰囲気が伝わってくる。
 そうやって友達と笑っている菅谷くんは本当に楽しそうで、その笑顔が全て無理をしているとは思えなかった。

「勝手に心配しすぎるのは良くないよね……」

 誰にも聞こえないほどの声でそう呟いてしまう。

 それから私は自分から声をかけず、菅谷くんから声をかけられるのを待っていた。隠し事が上手な菅谷くんは私から声をかけても「大丈夫」としか言わないと思っていたから。

 でもそれからしばらく経ったある日、私はその判断をとても後悔することになる。


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