日々、アオハル
帰りの電車は行きと同じく、扉横の二人席に柊くんと横並びになって座った。
私の涙は流石にもうおさまった。ウォータープルーフのマスカラのおかげで、目元はそこまで大惨事にはなっていなかった。
「羽森さん、一緒に聴かない?」
電車が動きだしてすぐ、柊くんはバッグから小さな袋を取り出した。
「これって、イヤホン?」
「そう。俺ヘッドホンしか持ってないから、これ、買っておいたんだ」
「え、わざわざ買ったの?」
「百均だけどね。羽森さんと一緒に聴きたいなと思って」
封を開けた袋の中からイヤホンを取り出した柊くんは、ぐるぐると巻かれていたコードを伸ばして自分のスマホに接続させた。
「私、こういうタイプのイヤホン使うの初めてかも」
ワイヤレスしか使ったことがないから、有線イヤホンはなんだか新鮮。
片方のイヤホンを柊くんから受け取った。私は右耳に、柊くんは左耳に、それぞれイヤホンを付ける。少し距離が縮まって、肩と肩がぶつかった。
「聴きたい曲ある?」
「んー…柊くんのおすすめがいいかな」
「じゃあ、プレイリストからランダムで流すね」
ふと正面を向くと、向かい側の窓には一つのイヤホンで繋がった私と柊くんの姿があった。青春ぽいな、と思いながら、スマホを操作する柊くんを窓越しに見つめる。心に焼き付けるように、じいっと。
右耳から女性の歌声が聞こえてすぐ。「あっ」と思わず目を見開いた。
イヤホンから流れるのは、前に柊くんに「おすすめの曲は?」と聞かれて答えた私の好きな曲だった。
「(プレイリストに入れてくれたんだ……)」
胸のあたりがじわじわ熱くなる。
''うるさいほどに高鳴る胸が 柄にもなく竦む足が今''
''静かに頬を伝う涙が 私に知らせるこれが初恋と''
紡がれるメロディと歌詞に鼻の奥がツンとした。涙腺が再び刺激され、それを隠すように静かに瞼を閉じた。
同じくして、私の初めての恋も、一旦幕を閉じた。