日々、アオハル
「私は三田第一、二年の羽森雛夏です」
「……え」
柊くんと同じ内容のシンプルな自己紹介。何一つ変わったことは言っていないはずなのに、どうしてか柊くんは驚いた反応を見せた。
「あの…、」
「名前」
「名前?」
「ひなちゃんじゃないんだ」
「えっ」
「大会の時にそう呼ばれてるのを聞いたことがあるから、てっきり……」
今度は私が驚く番だった。
不意打ちの ''ひなちゃん'' 呼び。そして何より、私の存在を知ってくれていたことが予想外すぎて、落ち着き始めていた心が再び騒がしくなる。
「バスケ部の皆だけじゃなくて、友達にも、家族にも、そう呼ばれてて。昔からのあだ名みたいな感じなんです。本名は雛夏です。雛人形の雛に夏休みの夏で雛夏、です」
人間、テンパりすぎると余計なことまで話してしまうらしい。
自分の名前を連呼して、更にご丁寧に漢字の説明までしてしまった。……恥ずかしい。
それにちょっとだけ早口になってしまった。……恥ずかしい。
目線を下げて少しだけ俯いていると「いい名前だね」と落ち着いた声に褒められた。
「俺の名前は世界の世に、」
更に驚いたことに、柊くんも名前の漢字の説明をしようとしてくれている。
もちろん私は漢字までも把握済みだ。
「な、……な」と視線を宙に浮かせながら真剣に答えを探す柊くんは、横に置いていたバッグからスマホを取り出し、何やら操作していた画面を私の方へと向けた。