日々、アオハル
「迎えきた?」
「うん。駐車場に着いたみたい」
「そっか」
もう少し、話していたい。もう少し、ここにいたい。
「柊くんは電車の時間、大丈夫?」
「うん。ここで適当に時間潰してる」
「そっか」
寂しさが、声に乗ってしまう。
私たちが使っている電車は上りも下りも、多くて30分に1本。
「 (柊くんと一緒に、電車で帰りたかったな) 」
図々しい願いがどんどん溢れ出てきてしまう。
過保護なおにいちゃんのことだ。あまり遅いと店内まで私を探しに来る可能性はかなり高い。
名残惜しいけど、バッグにテキストとペンケースを仕舞って席を立つ準備をする。
「じゃあ……、行くね」
「突然だったのにありがとう」
「こちらこそ、ありがとう」
お互いぎこちなく言葉を交わす。別れ際、最後の言葉に迷ってしまう。「またね」と言っていいものなのか、無難に「ばいばい」と言って立ち去るか。
立ち上がったまま考えあぐねていたところ「羽森さん」と下から名前を呼ばれた。
「またね」
遠慮していた言葉を代わりに口にしてくれたことが嬉しくて、口元が緩んでしまう。
「うん、またね。……新人戦、がんばろうね」
胸の前で両手をグーにして握る。心の中にあった言葉を伝えることができて、自然と笑みがこぼれた。
ほんの僅か、柊くんの動きが止まったように感じだけれど、すぐに「うん」と返してくれた。
憧れだった柊くんと偶然会えて。私の存在を知ってくれていて。話をすることができて。本当かは分からないけど、友達になることができた。
短い時間に詰め込まれた夢のようなひと時が忘れられなくて、その日はなかなか寝付くことができなかった。