日々、アオハル
「連絡先は聞けた?」
波琉からの質問に数秒空けて首だけを振る。
あの場にいるだけで精一杯だった。会話を繋げることに必死だった。
こいつらにすれば連絡先を聞くなんて挨拶するのと同じくらい簡単なことかもしれないけど、そんなの俺にはハードルが高すぎる。
「けどさ、2人でスマホ見てたよね?」
「あー……、ペットの写真見せてた」
「麦太?」
「そう。羽森さんも、同じ犬種飼ってた」
「へえ。それで距離が縮まったわけね」
距離が縮まったかどうかは分からないけど、犬の話題になった途端、羽森さんの表情が一気に和らいだ。口数も増えたし、目が合う回数も増えた。それに――
『ビションって、ほんと可愛いですよね』
「笑った顔、めちゃくちゃ可愛かった」
心の声が知らずのうちに口から出ていた。
遠くからしか見たことがなかった、控えめで可愛らしい笑顔が俺に向けられる日がくるなんて。あの笑顔が、まだ頭から離れない。
「いや、お前が可愛いかよ!」
どうせまた冷やかしの歓声がくるんだろと構えていたところ、正面からは強めのツッコミがとんできた。
「なあ、待って。俺、こんな世那、知らねーんだけど!」
続けざまに佐野はわざとらしく声を張り上げる。