日々、アオハル
顔を正面のコートへ向けている大河原くんは、ずっと口を動かしていて、誰かに何かを話しかけている様子だった。
最初はそれがコートへいるメンバーに対してだと思っていたけれど、どうやらその相手は隣に座る柊くんのよう。
視線を落とし、床の一点を見つめながらストローに口をつけている柊くんは、こくこく、と何度か頷いていた。
2人でこの決勝戦の戦略でも練っているのだろうか。
そして私は気付いてしまった。缶ココアを持つ左手とは反対側。柊くんの右手首に、黒いリストバンドが付けられていることに。
コートの中央に各チーム5人のスターティングメンバーが一列に並んだ。左から3番目、手を前で組んでいる柊くんの右手に視線を送る。
少し目を細めると、ブランドのロゴが大きく主張するリストバンドに刺繍されている名前が見えた。
「( なんで、水戸さんのお守りを、柊くんが付けてるの……?)」
ひゅっと心臓のあたりを冷たい風が通って、喉の奥がつかえた。
選手たちは一礼を交わし合い、それぞれの配置へとつく。いよいよ、試合が始まる。周囲の歓声が大きくなる。
「( だめ。こんなんじゃだめ。集中しないと )」
首元からぶら下げる歴代マネージャーから引き継いだ御守りを握りしめて、もう1度、気合いを入れ直す。
三田第一のジャンプボールは4番を背負うキャプテンの光希。今日は4試合ともジャンプボールを制している。
光希の前に、佐野くんが立ち並んだ。
白石東からはジャンプボールに定評のある7番エースの柊くんがくるものだと誰もが予想していた。三田第一ベンチが少しざわつく。
主審の投げたボールが高く上がる。
光希の手にボールが当たり、試合が始まった。