日々、アオハル
水道前に佇む柊くんは、蛇口から溢れ出る水を右手に当てていた。俯いていた顔が横へと向けられる。
「……え、」
色素の薄い瞳が、ゆっくりと見開かれた。
「やっぱり、怪我、してたんだ」
「……」
息も絶え絶えに告げた言葉に、柊くんは更に目を見張らせる。
水が当てられている右手首は赤く腫れていた。水道の上には剥がされた湿布が置かれている。
「準決勝の時、相手とちょっとした接触があったんだ」
自身の手首へと目を伏せた柊くんは静かに口を開いた。
「痛みはあったけど完全に動かないわけじゃないし、決勝は絶対に出たかったから、メンバーにも顧問にもお願いして出させてもらってた」
「……」
「第一の人たちには怪我のことがバレないように、リストバンドで誤魔化したつもりだったんだけど…」
「水戸さんの、リストバンド?」
「そう。丁度持ってたのがマネージャーだけだったから、それを借りてた」
『柊くんには頑張ってもらわないとだからねー……』
『ほんとですよね。決勝は柊先輩にかかってますもんね』
あの時水戸さんたちは、柊くんの怪我を知っていたからあんな会話をしてたんだ。
柊くんが水戸さんのリストバンドを付けていた理由を知って、ほっとしてしまっている自分がいる。彼はこんなに痛々しい怪我をしているというのに。