日々、アオハル

地面に落としていた視線を再び上げると、柊くんは目を見開かせたまま、全ての表情筋を硬直させていた。


ここでようやく、自分の失態に気付く。


「(あれ……、ちょっと、待って……。私、なんかすごいこと言ってない……?)」


素人なのに柊くんのプレーをどうこう言ってしまった。ずっと見てたなんて言葉、気味が悪いに決まってる。


「(どうしよう……。絶対ドン引きされてるよ……)」


「ご、ごめんなさい。やっぱり、今の言葉は、忘れて……?」

「……」

「あっ、私、丁度救急セットを持ってるの。簡単な応急処置くらいならできると思う」


完全にテンパってしまった私は、1人で挙動不審になっている。口数も多くなる。話題を変えようと救急バックからテーピングとハサミを取り出して、柊くんの元へと近付いた。


これでも一応マネージャーの身。怪我の手当ては何度も経験があるし、応急処置の知識も学んできた。


これが終わったら、山口先生の車に戻ろう。


蛇口を止めた柊くんは、水気を拭いた右手を私へと差し出す。指先に手を添えて、テーピングを巻いていく。


柊くんの表情を見るのが怖くて、顔を上げることはできない。お互い無言のまま、静かに時が過ぎる。


「(よし、出来た)」


綺麗にテーピングを巻き終えて満足する。あとは病院に行ってもらうとして、私の役目ももう終わり。


添えていた手を離そうとした時、柊くんの指先が、私の指先を握った。


「――も」

「……え?」

「俺も、」
< 60 / 95 >

この作品をシェア

pagetop