日々、アオハル
「……わかった」
「今日はごめん。お疲れ」
「お疲れ様。ゆっくり休んで早く治してね。羽森さんも、お疲れ様」
「あ、うん、おつかれさま」
背を向けて歩き出した水戸さんが角を曲がるのを確認して、ゆっくりと後ろを振り返った。
指先はまだ、握られたままでいる。
少しでも手を動かせば、すぐに離れてしまいそうなくらいの力の弱さ。だけどさっきのように手を離したくない、このまま触れていたい、と思ってしまった。
握られている指先を、少しだけ、握り返した。
唇を結んだまま、柊くんを見上げる。
「さっきの続き、言ってもいい?」
私を見下ろす柊くんは少し掠れた声でそう言った。
顔を上げたまま、小さく頷く。
「……」
「……」
「ごめ、ちょっと……待って、」
ゆらゆらと視線が下降する。もう片方の掌を私に向けた柊くんは少しだけ顔を俯かせた。
生温い風に乗ってシトラスの爽やかな匂いが正面から漂う。
小さく息を吐く音が聞こえる。柊くんの顔が上がる。真剣な眼差しを送られる。
指先にいっとう力が込められた。
「俺も、見てたよ」
「……え、」
「羽森さんが一生懸命マネージャーの仕事をしてるところ。1年の時から、ずっと見てた」