日々、アオハル

「あの時、柊くんも、いたの?」

「うん。いた」

「私、あの時慣れないことをしたからすごく緊張してて、周りの人のこと、よく見れなくて……。手当てをしたのが白石東の人だったことも、そこに柊くんがいたことも、今初めて知った……」


『……あの、大丈夫ですか?私、救急セット持ってるので、消毒しましょうか……?』


人見知りで控えめな彼女の性格を知れば知るほど、男だらけのあの中、声をかけるのはかなりの勇気が必要だったんじゃないかと思う。


「他校のやつのためにわざわざ足を止めて、一生懸命手当てしてくれてる羽森さんを見て、すごく優しい子だなって思った。それが羽森さんの第一印象」


本当の第一印象は "可愛い" だったけど、流石に引かれてしまいそうなのでそれは心にしまっておくことにする。


あの時の羽森さんは、手に持っていた自販機で買ったばかりであろう水を躊躇いなく開けて、傷口を洗い流していた。


「あの時はちょうど救急バッグを持ってて、だから手当てをすることができたの。私はただ、当然のことをしただけだよ」


その ''当然''を当たり前にできる人はこの世の中にどれくらいいるのだろう。困っている人がいたら助ける。口では簡単に言えるけど、咄嗟に動くことができる人は意外に少ないと思う。


『痛いですよね。すみません、ちょっと染みますね』


持っていた荷物を全て地面に置いてしゃがみこみながら、見ず知らずの人間の手当てをする羽森さんは、間違いなく心の優しい人だと思った。
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