ひとりだけ

血文字


相変わらず泣いている女性は、顔を上げない。



「どうして泣いているんだろう?」


信が話しかけようとするけれど、祐子が止める。



「やめときなって。そっとしておくほうがいいよ」

「そうだよ、今は彼女が落ち着くのを待ったほうがいいよ」



マミまで止めるので、信は「そっか」と思いとどまった。



大成が、
「出入り口がない部屋から脱出するなら、壁とかをみんなで壊せばいいんじゃない?」
と、ひらめいた!と言わんばかりの輝いた表情で発表する。



「物事をすぐ力で解決しようとしないで」
と、祐子。



「ここがどこなのかもわからないじゃない。部屋の壁を壊して、外が海だったら? 険しい崖の上だったら?」

「そんなところに、オレが行くと思う? 面倒くせぇじゃん。絶対に行かない自信がある」

「いや、そんなの知らないけど。……でも、私だってそんな危険な部屋にわざわざ行かない自信はあるよ。でもさ」



祐子が言葉を切って、みんなを見る。
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