ひとりだけ
「……だから誘拐じゃ、ないよな?」
大成の口調にはどこか安堵の色が混じっているけれど、信が首を振って、
「いや、監視カメラがないからって、監視されていないと判断するのは早いよ」
と、冷静な声を出し、大成の表情をまた曇らせる。
「ねぇ、この『ひとりだけ』って書いてある血文字……」
祐子が、血文字を指差す。
「これ、何かのヒントになるんじゃない?」
「何かって?」
と、マミ。
「わからないけれど。脱出方法のヒントかもしれないし、犯人がいるなら、その人に繋がるヒントかも」
祐子に、泣き続けている女性以外のみんなが注目している。
「『ひとりだけ』って書かれた意味を見つけようよ。きっとこれには意味があるんだよ」
最初に頷いたのは、信だった。
「そうだね。意味がわかれば、このよくわからない状況のことだって、説明がつくかもしれないもんね?」
信と祐子は部屋の中央に進み、血文字をじっくりと観察し始めた。
さっき祐子に、『そんなの、よく間近で見られますね』と言われたことを、私はなんとなく思い出してしまう。