ひとりだけ
「いや、ちょっと待ってくれよ。そんな……、オレ、よくわかんねぇよ」
「大成、ここはみんなで協力しなくちゃいけないんだ! 『ひとりだけ』記憶を戻して、抜けがけする気じゃないだろうな!?」
「は? オレはそんなせこい人間じゃねーよ!」
信は「どうだか!」と、吐き捨て、
「さっきだって『ひとりだけ』助かるとか助からないとか、そんな話をし始めたのは、確かにきみだろう、大成!」
なんて冷たく言い出す。
「お前、そんなふうに思ってんの? オレが抜けがけするって?」
「……いいから、どうしたら記憶が戻るのか、教えろよ!」
「何だよ、それ! 散々『協力しよう』なんて強調しておいて、結局は自分が助かることばっか考えてんの、お前のほうじゃん!」
「オレはそんなこと、考えてない!」
「いや、そんなふうにしか見えないし!」
(……時間の無駄だな)
もうどっちだっていい、と思えてきた。
とにかくこの部屋から出たいのは、私も同じだけど。