ひとりだけ
「……そうだよ。彩綾のことは、本当に刺激しないほうがいい。どうして泣いているのかよくわからないけれど、泣くだけで何もしないなら、きっとそのほうがいい」
「脱出するための方法を考える時間が稼げるもんね?」
「そう」
マミはふぅっと息を吐き、
「信の言葉じゃないけど、みんなで協力して、全員が助かる道があればいいね」
と、笑顔を見せた。
「さっきオレらを脅した奴から聞く言葉とは思えないけどな」
大成も笑う。
その時。
大成が「あっ」と、小さく呟いた。
「……何? どうしたんだ?」
信の質問に、
「オレ、知ってるんだ……」
と、大成が答えた。
「オレ、小泉 彩綾を知ってるんだ。多分……」
「えっ、そうなのか?」
大成は頷き、
「だんだん思い出してきた……。オレ、彩綾とマミと同じクラスだった。中学の時……」
と、マミを見た。
「……うん」
マミは頷き、
「私も、それは覚えている。彩綾のことは。大成のことはまだ思い出せないけれど」
と、言った。