ひとりだけ

まだ気がつかない他の人達の顔を見るために、私はひとりひとりに近づこうとして、その場で立ち上がる。



(!!)



ふらついた。

足に力が入らない。



腹部に穴があいているような、妙な感覚。



(空腹だったっけ?)



それすらもよくわからない。

自分が満腹か空腹かもわからないなんて、不安な気持ちに襲われる。




ふらつく足で、私に一番近い位置に突っ伏している人の顔を見た。



(知らない男性……)



凛々しく整った顔立ちで、なんとなく知的な雰囲気がある。

細い銀縁のメガネをかけている。

白いトレーナーに、デニムパンツを履いている彼を見て、私はあることに気がついた。



(私も、この人と同じ恰好をしている……)




なぜなんだろう?

そう思って、泣いている彼女を見ると、彼女は紺色のワンピースに赤いカーディガンという服装だった。



(?)



意味なんてないのか、と思ったけれど、気がついていない他の人達をざっと見ると、私や銀縁メガネの彼と同じ恰好だ。
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