ひとりだけ
不思議に思っていると、
「……あれ?」
と、少し離れたところでひとり、女性が起き上がった。
泣いている女性が、肩をビクッと震わせたことを、私は見逃さなかった。
起き上がった彼女はぼんやりと部屋を見渡して、床に書いてある血文字を見つけて小さく「ひっ!」と、悲鳴を上げた。
そして、私と彼女の目が合った。
探るような目つきで、私を見ている。
「ここ、どこですか?」
彼女が私に声をかけたことで、他の人達も目を覚ました。
私は彼女の顔も知らない、と思いつつ、彼女の質問に対して【わからない】という意味で、両手を広げてみせる。
彼女は自分の洋服を見下ろし、不思議そうな顔をしたあと、ポケットを探り始めた。
「何にも持ってない……、スマホも、財布も……」
私も他の人達もパタパタとポケットの上に手を当てて確認するものの、彼女同様、何も持っていないようだった。
……奇妙な沈黙が流れる。