ひとりだけ

「……小説、ちゃんと読んだ? “器”ってさ、生き残るけどね、この部屋からは出られないんだよ」

「そんな……!!」
と、信。



「この部屋に残って、次に来る人達を迎えるの。“悪魔”の“器”になって。それで用が済んだら食べられると思う。だって、また新しい“器”が代わりにやって来るんだから」

「それじゃあ、助かったうちに入らないじゃないか!」

「……まだ助かろうなんて思っているの?」
と、彩綾が冷たく言う。






「苦しめばいいのよ、あんた達全員」









(……なるほどね)
と、私は思った。



なるほど、そういうことか。




「ちょっと、待って。じゃあ、オレは? “悪魔”か“器”かのどっちかなの?」
と、信が真っ青な顔をしている。



「どっちでもいいよ」
と、彩綾。



「どっちだって同じじゃない?」



信は絶句している。



私は彩綾のことを恐ろしい人だな、と思った。

さっきまで泣いていた人とは思えない。

まるで彩綾のほうが“悪魔”だな、とさえ思ってしまう。
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