ひとりだけ

「えっ?」






「……ひと言も話していないんじゃない?」

「そう、だったっけ?」



大成が思い出そうとする。

そして、言った。



「そうだ。全部、ジェスチャーで答えていた気がする」

「どうして? なんで話さないの?」







私は、口元を手で押さえた。

だけど思い直し、手を離して。

こう言った。





「…………だって話すと、歯が見えるでしょう?」






「っ!!!!!」





私は、この部屋で気づいてから初めて、歯を見せて笑ってみた。

全員が、ゾッとしているのがわかる。




それもそうか。

だって、このするどい歯で。





これから、あなた達を……。









…………食べるんだから。

















「うわぁぁあああぁぁぁっ!!!!!」









誰が叫んでいるんだろう。

正直、うるさくて仕方ない。





だけど。

そうか。

思い出した、全部。

私。

私こそが。







……“悪魔”だったんだ。









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