一生分の愛情をもらいました。

元カレ現れる

2人が恋人になってからも、隼人との日々は穏やかで幸せなものであった。
2人の関係は日に日に深まり、以前のような不安や孤独は華の中からすっかり消えていた。隼人と過ごす時間は、彼女にとって何よりも大切で、彼との未来に希望を抱いていた。

ある日、華がいつものようにパン屋の店を開け、忙しい仕事を終えた後、帰る途中に何気なく振り返ると、そこに見覚えのある人物が立っていた。
驚きとともに、その人物が誰かを確認した瞬間、胸が締め付けられた。そこに立っていたのは、元カレの翔太だった。

「華、久しぶりだね。」
翔太の声が、華の耳に入ると同時に、華の心の中に不安と動揺が広がった。彼はしばらく連絡を取ってこなかったし、別れてから会うこともなかった。

「翔太…どうしてここに?」
華は冷静を装いながらも、心の中で何か嫌な予感がした。

「君が最近幸せそうにしているのを見て、どうしても言いたくなったんだ。」
翔太は少し無理に微笑んで言った。

「僕は君をまだ忘れられない。お前がいなくなった後、ずっと後悔していた。だから、もう一度やり直したい。」

その言葉に、華は思わず胸を押さえた。
隼人と新たな人生を歩み始めた華にとって、過去の関係を再び引き戻すことなど考えられなかった。

「翔太、もう無理だよ。」
華は冷たく言った。
「私には、隼人がいる。彼との未来を考えている。だから、あなたとはもう会わない方がいい。」

翔太の顔に、一瞬怒りと失望が浮かんだが、すぐにそれを隠すようにして言った。
「でも、まだ俺のことを愛してるんだろ?」
その言葉に、華は深くため息をついた。
「違う、翔太。もうあなたとは終わったんだよ。」

その言葉が翔太には耐えられなかったのだろう、彼は少し顔を赤くしてから、強い口調で言った。
「君が幸せでいることなんて、俺には関係ない。ただお前が俺を忘れるなんて、許せない。」

華はその言葉に恐怖を感じながらも、強く言い返した。
「翔太、お願い。今すぐにここから去って。」

その時、店のドアが開く音がした。
出勤前に隼人が顔を出したのだ。隼人は二人のやり取りを目の当たりにし、すぐに華の元へ駆け寄った。

「華、大丈夫か?」
隼人の目が冷たく翔太を見つめると、翔太は少し引き気味になった。
「お前、誰だ?」
翔太は不機嫌そうに言ったが、隼人は無表情で答えることなく、華を守るように前に立つ。
「君がここで何をしているのかは関係ない。ただ、華には二度と近づかないでくれ。」

翔太は怒りを抑えるように歯を食いしばり、最後に華に向かって言った。
「分かったよ。でも、諦めるつもりはないからな。」
そう言うと、翔太は足早に店を後にした。

華は肩を震わせながら、隼人の方を見た。隼人は優しく彼女を見つめ、そっと手を差し伸べた。
「大丈夫だよ、華。僕は君の味方だから。」

華はその言葉に胸を打たれ、隼人の手を取った。
心の中で、翔太がまだ諦めていないことを感じていたが、今は隼人がそばにいることで、少しだけ安心した。


数日後、華はパン屋の仕事を終え、隼人と一緒に夜の静かな街を歩いて帰ろうとしていた。
その時、ふと後ろから足音が聞こえ、振り向くと、やっぱりそこには翔太が立っていた。今回は、以前のような怒りの表情ではなく、どこか冷静さを帯びた様子で華を見つめていた。

華は一瞬ためらったが、冷静に言った。
「もう話すことはないよ、翔太。」

翔太は少し笑みを浮かべたが、その表情にはどこか意地の悪さが混じっていた。

「君が医者とと付き合ってるのは知ってる。でも、俺はまだ諦めてないんだ。」

「翔太、お願いだから…」

華はその言葉を遮るように言った。

「私は隼人と一緒にいることを決めたんだから。あなたの気持ちに応えることはできない。」

だが、翔太はまるでそれが理解できないかのように続けた。
「そんなのただの一時的なもんだ。君も俺のことを思い出す時が来るさ。」

その言葉を聞いた瞬間、華の心に怒りがこみ上げてきた。翔太の未練がましい態度に、もう一度振り回されることは絶対にないと決心したからだ。
「もう私を試すようなことはやめて! これ以上関わらないで。」

その時、隼人2人間を割って話した。

「もうやめろよ」
冷徹な目で翔太を見つめていた。その強い眼差しに、翔太は一瞬たじろぎ、黙った。

「君が何を言おうと、華は僕の大切な人だ。君の言葉がどうあれ、彼女を傷つけるようなことは許さない。」
隼人の声は冷たく、だが力強かった。翔太はそれ以上反論することなく、しばらく黙って立っていた。

「もう、二度と会うな。」
隼人の言葉が重く響いた。翔太はそのまま無言で立ち去り、二人は静かな夜の中で息をついた。

沈黙の中、隼人が「華のために特別なことをしたい」と言い出し、二人で小さな旅行に出かけることになった。
美しい風景の中で、隼人と過ごす時間は、華にとって何よりも貴重なものとなった。

その旅行から帰ると、華の心はますます穏やかになり、隼人との未来に対する確信が深まっていった。翔太の存在がいくら過去に影を落としても、二人の愛を深めていく時間が、その不安を吹き飛ばしてくれた。

「どんな困難があっても、二人なら大丈夫だよ。」
隼人はそう言って、華をしっかりと抱きしめた。
< 10 / 27 >

この作品をシェア

pagetop