一生分の愛情をもらいました。
隼人は心臓マッサージを続けながら、華の顔をじっと見つめた。
彼女の目は完全に閉じられ、顔色は死人のように青ざめている。無反応なまぶた、震える唇、冷たく硬くなった手——その全てが、隼人の胸を締めつけ、無意識のうちに彼は心の中で叫んでいた。

「華、お願い…目を開けてくれ。」

それがどれほど無力な叫びだったか、彼は分かっていた。
だが、目の前の彼女を失いたくない、命が戻る瞬間を信じたかった。隼人は無心で心臓マッサージを繰り返し、人工呼吸を続けながら、全ての力をその手に込めた。彼女の命がつながるように、全身全霊をかけて祈りながら。

「呼吸が戻るまで、絶対に諦めない。」

時が過ぎていく。隼人の手は疲れきっていたが、決して止めることはなかった。
息を引き取ったと思われる華の体に、ただひたすらに手を加えていた。何も反応がないまま、心臓は止まり、血圧はどんどん低下していく。隼人は感覚を失いそうになりながらも、あきらめずにただ一つ、命を繋ぐことだけを考えた。

その時、医療スタッフの声が静かに響いた。

「南野先生、もう…」
その言葉を聞いた瞬間、隼人の手が一瞬だけ止まる。心の中で何かが崩れそうになる。しかし、絶望に負けたくなかった。彼女を失いたくなかった。

隼人の手が心臓マッサージを続ける中で、華の体に微かな反応があった。心臓の鼓動が、最初はかすかに、そして徐々に強くなっていく。その瞬間、隼人の胸に溢れる安堵感と希望は言葉にできないほどのものだった。

「華…!」
隼人は思わず声を上げ、彼女の体を抱き寄せる。心臓が再び動き出したことを確認した彼は、周囲のスタッフに指示を出し、華をさらに安定させるために手を尽くす。

「少しずつ、落ち着いてきてる…」
隼人は自分に言い聞かせるように呟きながら、華の顔を見守る。彼女の胸が小さく上下し、薄くではあるが息が戻ってきた。
しかし、まだ完全に安心するには早すぎる。隼人は深く息をつきながらも、心の中では安堵と共に次の不安が湧き上がるのを感じていた。

その時、突然、華の体に異変が起きた。

彼女の胸が一度大きく上下した後、急にぴたりと止まった。手足が冷たくなり、顔色が再び青ざめ、呼吸も完全に止まってしまう。隼人の心臓が再び跳ね上がる。
「ピーーーーーー。」

「ダメだ…!」
隼人はすぐに再度心臓マッサージを開始した。まさに一瞬の出来事だった。華が戻ったかと思った矢先、命の糸が再び切れたようだった。隼人の手は震え、焦りと絶望が一気に彼の胸を締め付ける。

「どうして…どうしてなんだ…!」
隼人は必死に呼吸を整えながら、華の体に向かって全力で心臓マッサージを繰り返す。だが、再び彼女の体は無反応になり、目の前の命が消えようとしていた。スタッフもその状況に気づき、冷静に動きながらも、心の中でその予感を感じ取っていた。

「南野先生、もう一度確認を…」
そのスタッフの声が静かに響く。隼人は何も言わず、またもや心臓マッサージを続けた。命を繋ぐため、彼女を助けるために、何度でも手を動かし続けた。

「お願い、お願いだから…!」
隼人は心の中で華の名前を呼び続ける。彼女が目を覚まし、動き出してくれることをただ信じて。

だが、数分が過ぎ、心臓が止まったままだった。再度、スタッフが最終確認をしようとする。隼人はその声を無視して続けた。

「まだだ! 絶対に、絶対に戻ってくるはずだ…!」
隼人の目には涙が浮かび、必死に全ての力を込めて、華の命を取り戻そうとしていた。周りのスタッフもその必死な姿に、言葉を失っていた。華の命が一度戻ったように見えたものの、再び彼女は深い無意識の世界に戻りそうだった。





その時、奇跡が起きた。

心臓がもう一度、微かに鼓動を始めた。
華の心臓が二度目の鼓動を取り戻した瞬間、隼人は深く息をつき、無意識に涙を流した。その微かな鼓動が確かに戻ったことを感じ、希望の光が差し込んだように思えた。しかし、その希望は束の間、まだ油断は許されなかった。

「心臓が再び動きました。ですが、依然として非常に不安定です。」
隼人は冷静にスタッフに指示を出しながらも、心の中で強い不安がこみ上げてきていた。華の命を取り戻すためには、まだ多くの時間と処置が必要だった。どれだけ心拍が戻ったとしても、彼女の体は重度のダメージを受けている。心臓が止まる可能性が再び訪れることは、十分にあり得るのだ。

「すぐに集中治療室に移します。」
隼人はスタッフに指示を出し、華を急いで運ぶ準備を始めた。彼女の体が再び無力に動かないまま、床に横たわっているのを見つめながら、隼人の心はまだ決して落ち着かなかった。彼女の目が開いても、まだ完全に意識が戻ったわけではない。脳に十分な酸素が届いていない可能性もある。

華の体に再度異常が現れるのではないかという恐怖が隼人を支配していた。心拍が戻ったとはいえ、それはあくまで「再生」の兆しに過ぎない。華が再び命を失うことなく、無事に回復する保証はどこにもない。

集中治療室に到着した華は、複数のモニターに囲まれ、心拍数や呼吸、血圧がリアルタイムで表示されていた。隼人は冷静に数値を確認し、華の容態がどのように進行しているのか、細かくチェックし続ける。

その時、隼人の脳裏に元カレの翔太の言葉がよぎった。

「お前が一番じゃないんだよ。華は俺のものだ。」
翔太の言葉が未だに耳に残る。あの言葉が、どれほど華にとって辛いものであったかを知っているからこそ、隼人は必死に華を守ろうとしていた。自分の中で、彼女を失いたくないという気持ちが強くなっていく。

「絶対に、絶対に助けてみせる。」
隼人は心の中で誓いを立て、再び華の脈拍を確認した。その小さな鼓動が止まらないように、必死で守り続けようと心に誓った。

時間が過ぎ、華の状態は安定してきた。しかし、隼人の顔に浮かぶのは安堵の表情ではなく、むしろ戦いのような決意だった。彼女は命を取り戻したものの、その後の回復には時間がかかるだろう。予断を許さない状況は続く。

その夜、隼人は眠れぬまま病室で華の容態を見守っていた。モニターの音が静かに響く中、隼人はただひたすらに祈り続けていた。華が目を覚まし、再び笑顔を見せてくれる日が来ることを。

「お願いだ、華。もう少しだけ、頑張ってくれ…」
隼人はそっと、華の手を握りしめた。その温もりを感じながら、彼女が回復することを信じて、全力で支え続けることを決意していた。
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