一生分の愛情をもらいました。
隼人は、休むことなく病院と華の病室を往復していた。彼が目の前の仕事をこなす時間を除けば、ほとんどの時間を華のことを考え、彼女のそばにいることに費やしていた。
医師として冷静に、患者としての華を見守り、彼女の命を守るためにできることを一心不乱に考えていた。


だが、他の医師たちは、次に心臓が止まったらもう動き出す可能性は非常に低いと告げてきた。それは、隼人にとって耳を塞ぎたくなるような現実だった。命のかけらを引き寄せ、何度も危機的状況を乗り越えてきた華だったが、今度はその命を守るために懸命に戦っている隼人も、その可能性の低さに直面していた。

「次に心臓が止まったら、かなり厳しいかもしれません。意識が戻らない場合、回復は望めません。」
隼人はその言葉を受け入れることができなかった。だが、冷静に考えれば、医師としての現実を無視するわけにはいかない。
心臓は再び停止することがあれば、その時の回復率は極めて低く、しかもすぐに治療が施されなければ取り返しのつかないことになる。その事実を前にして、隼人の心は重く沈んでいた。


「もし、次に止まったら…」
隼人は深く息をつき、華の病室の前で足を止めた。ここから先、どんなに医者として最善を尽くしても、もう華の命を取り戻せないかもしれない。その恐れと不安が、隼人の心を支配していた。

しかし、隼人は決して諦めなかった。

「もう一度、お願いだ。お願いだから、君を守りたい。」
彼は心の中で繰り返していた。華の手を握りしめ、温もりを感じることで、自分がどれだけ彼女に頼っていたか、どれだけ彼女を愛しているかを再認識した。

その夜も隼人は病院に泊まるつもりだった。華の側にいなければならないという強い思いから、家に帰る気にはなれなかった。病室に座り、華の容態を見守りながら、時間が過ぎるのを感じていた。

静かな夜の病院。モニターの音が響き、隼人は華の顔を見つめながら、心の中で必死に祈った。彼女が再び目を開けること、心臓が安定すること、そして回復することを。

突然、モニターの表示が不穏に動き始めた。隼人の心は一瞬で高鳴り、目を凝らした。

「華…!」
隼人はすぐさま医療スタッフを呼び、最悪の事態に備えた。しかしその時、華の心臓が微かに鼓動を始めた。

「まだ…まだ、大丈夫か?」
隼人の目には驚きが広がった。心拍数が一時的に下がり、再び安定を見せた。それは、まさに奇跡のような瞬間だった。

「君は強い、華。絶対に…絶対に助ける。」
隼人は華の手を強く握りしめながら、心の中で誓い続けた。

それから日が経ち、華は依然として意識を取り戻さなかった。隼人は時間があれば病室に駆けつけ、彼女の手を握り続けた。無言で、ただ彼女が目を覚ますことを祈りながら。

数日が過ぎ、医師たちからも次第に見放されていく。だが、隼人は決して諦めなかった。自分にできることはただ、華の命を信じ、心臓を止めないように手を尽くすことだけだった。

そして、三日目の夜。隼人が病室で手を握りしめながら、いつものように華を見守っていると、突然、華の体に異変が起こった。モニターの波形が、ゆっくりと動き始めたのだ。

隼人はその瞬間、息を呑んだ。「まさか…」
彼の胸は高鳴り、心臓がドクドクと音を立てた。だが、その喜びはすぐに恐怖に変わった。波形は再び弱まり、呼吸が止まる。再度、心停止が訪れたのだ。

「華…!」
隼人は必死に彼女の体を揺らし、再び心臓マッサージを始めた。医療スタッフが駆けつけ、みんなが協力して蘇生を試みる。しかし、時間は刻一刻と過ぎ、再び動かなくなっていくモニターを見つめる隼人の心は一瞬で砕けそうになった。

その時、隼人は最後の力を振り絞るように、華の耳元で声をかけた。
「華、お願いだ、目を開けてくれ。君がいないと、俺は…」
その声に、華の手がわずかに動いた。心臓がわずかに反応した瞬間だった。

医療スタッフの目の前で、モニターがまた動き始める。隼人の心はその瞬間、さらに激しく鼓動を打ち、手を握りしめながら祈った。
「お願い、もう少しだけ…君が戻ってきてほしい。」

そして、その時、華の体に微かに反応が現れた。まだ完全ではないものの、心拍が再び戻り、華の目元が微かに動いた。

その瞬間、隼人は涙を流し、何度も「ありがとう、華…」と呟いた。

隼人は毎日、華の病室で静かに過ごしていた。意識が戻らない日々が続き、医師たちは「回復の兆しは見られない」と告げ、華の状態に対する希望を口にしなくなった。
しかし、隼人は諦めることはなかった。毎日、華の手を握り、話しかけ、彼女が目を覚ますその瞬間を信じ続けた。

「華、君は必ず戻ってくる。俺がここで待ってるから。」

その言葉を心の中で繰り返しながら、隼人は寝る間も惜しんで病院に通い続けた。彼の心には一つの信念があった。たとえ医師たちが諦めていても、自分だけは信じて彼女を守り抜くこと。それが、今自分にできる唯一のことだと感じていた。

日が経つにつれて、隼人は少しずつ自分を取り戻していった。彼女が目を覚ますことを信じ、笑顔で語りかける自分を無意識に励ますことができるようになった。周囲の医師や看護師たちは、隼人の執念とも言える行動に驚き、時には不安を感じることもあったが、彼の姿勢を見守るしかなかった。

そして、ある寒い冬の朝。華の体温が少しずつ上昇し、微弱ではあるが反応が現れた。隼人はその兆しに気づき、思わず病室を飛び出して医師を呼び寄せた。

「華…?」

隼人の声に、華のまぶたがわずかに動いた。彼女が微かに反応するたびに、隼人は胸が震える思いを抱えながらも、心の中で「絶対に諦めない」と強く誓った。全ての感覚を研ぎ澄ませて、次に見逃さないように目を凝らす。
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