一生分の愛情をもらいました。

二人の新たなスタート

病院のロビーで隼人は華を待っていた。退院手続きが終わり、車椅子を押されて現れた華の姿に、隼人は柔らかな微笑みを浮かべた。その顔には安堵と決意が入り混じった表情が見て取れた。

「華、お疲れさま。これで病院とはおさらばだね。」
そう言いながら彼は彼女の荷物を受け取り、車椅子のハンドルを握る。華は笑顔を返しつつも、どこか緊張した面持ちだった。

車に乗り込むと、隼人は優しく言った。
「これから俺の家で一緒に過ごそう。君が安心して過ごせるように、全部整えてあるから。」

華は驚いた表情を見せたものの、隼人の真剣な目を見て頷いた。
「ありがとう。でも…本当に迷惑じゃない?」
「迷惑なんて思ったこと、一度もないよ。むしろ、これが俺の望みなんだ。」

その言葉に華は少し涙ぐみながら微笑み、隼人の提案を受け入れた。


隼人の家は明るく清潔で、ところどころに華のために準備したと思われる細やかな気遣いが見られた。
玄関近くには手すりが取り付けられており、リビングには足を伸ばしてゆっくり座れるようなソファが用意されていた。

「隼人さん、本当にここまでしてくれたの?」
「もちろんだよ。君が安心して暮らせるのが一番だから。」

最初の数日は、華も隼人も新しい生活に慣れるのに少し時間がかかった。
隼人は仕事の合間に帰宅し、華の体調を確認しながら家事をこなした。華も、できる範囲で家の中を整えたり、小さな料理を試してみたりして、少しずつ自信を取り戻していった。

ある日、華が小さなテーブルに夕食を並べていると、隼人が帰宅した。
「おかえりなさい。簡単なものだけど、夕ご飯作ってみたの。」
「すごい!ありがとう、華。」

隼人はその料理を一口食べると、満面の笑みを浮かべた。
「美味しいよ。君の料理が食べられるなんて最高だ。」
華は照れながらも嬉しそうに微笑み、二人で静かな夕食を楽しんだ。


同棲生活が始まってから数ヶ月が過ぎ、華の体調も少しずつ回復していた。
しかし、それと同時に彼女の中である思いが強くなっていた。

ある夜、隼人が仕事から帰宅すると、華は静かにリビングで座っていた。手には小さな封筒を握りしめ、その表情には迷いと決意が混じっていた。

「華、どうしたの?」
隼人が不安げに声をかけると、華は顔を上げ、少し震えた声で答えた。
「隼人さん…少し話があるの。」

隼人はソファに腰掛け、真剣な表情で彼女の言葉を待った。

「…私、このままじゃいけないと思うの。」

華は深呼吸をして続けた。
「隼人さんにずっと助けてもらってばかりで、私、何も返せてない。それに、私がここにいることで、隼人さんに負担をかけてるんじゃないかって…」

「負担なんて思ったこと、一度もないよ。」
隼人はすぐにそう答えたが、華は首を振った。

「でも私はそう思ってしまうの。だから、同棲をやめようと思うの。もっと自分でできるようになりたい。自立して、自分自身を取り戻したいの。」

隼人は驚き、そして戸惑った表情を浮かべた。彼女の決意が本気だということは、言葉の一つ一つから伝わってきた。


「華、本当にそれが君の望みなの?」
隼人は彼女の目をじっと見つめながら尋ねた。

「…わからない。でも、隼人さんにこれ以上迷惑をかけたくないの。」
その言葉を聞いて、隼人は少し黙り込んだ。

彼は大きく息を吐き、ゆっくりと言葉を選びながら話し始めた。
「確かに、君がここにいることで大変なこともあるかもしれない。
でも、それ以上に、俺は君と一緒にいることで支えられてるんだよ。」

「支えられてる…?」
華は驚いた顔で隼人を見つめた。

「そうだよ。君が頑張ってる姿を見るたびに、俺ももっと頑張ろうって思える。君が笑ってくれるだけで、俺は救われるんだ。」
隼人は彼女の手を優しく握りしめた。

「だから、君が自立したいって思うのなら、俺は全力で応援する。でも、無理はしないでほしい。君が一人で頑張りすぎて苦しむのを、俺は絶対に見たくない。」

華の目には涙が浮かんでいた。隼人の言葉が、彼女の心の奥底に響いた。


「…ありがとう、隼人さん。」
華は涙を拭いながら、少しだけ微笑んだ。

「やっぱりもう少しここにいてもいいかな?自立したい気持ちはあるけど、今はまだ…」

「もちろんだよ。」
隼人はすぐに答えた。

「君のペースでいいんだ。無理しないで、少しずつ一緒に進んでいこう。」
華はその言葉に安堵し、隼人の手を握り返した。


その日から、華は隼人と話し合いながら、新しい目標を少しずつ見つけていった。
自立のための準備をする中でも、二人はお互いを支え合い、これまで以上に強い絆で結ばれていった。

「隼人さん、ありがとう。これからもよろしくね。」
ある日の夕食中、華がぽつりとそう言った時、隼人は少し照れたように笑いながら答えた。
「こっちこそ、よろしく頼むよ。」

彼らはこれからも共に歩み続ける。


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