一生分の愛情をもらいました。

隼人SIDE


華が退院して同棲生活を始めてから、隼人は心から幸せを感じていた。
彼女が隣にいるだけで、家が温かく、明るく感じられる。それは、これまで独り身だった彼にとって、初めての感覚だった。

しかし、隼人は気づいていた。華が時折、ふと遠くを見るような表情を浮かべることに。自分に向ける笑顔の裏側に、何か悩みを抱えていることに。

ある日、仕事から帰ると、華がリビングでソファに座っているのが見えた。隼人の帰りを迎える彼女の顔には、いつもの明るさがなかった。

「どうした？何かあったのか？」
隼人は彼女の隣に座り、真剣な表情で尋ねた。

華は小さなため息をつきながら、ぽつりと切り出した。
「隼人さん…私、ここを出ていこうと思うの。」

隼人の心臓が一瞬止まったような気がした。
「どういう意味だ？」
声が震えるのを抑えながら、彼は続けて尋ねた。


「隼人さんに負担をかけたくないの。」
彼女の言葉に隼人は息を飲んだ。

負担なんて思ったことは一度もない。むしろ彼女がいることで、自分がどれだけ救われているか――。


隼人の胸の中でその思いが渦巻いたが、言葉にする前に華が続けた。

「私は今、何もできないし、隼人さんに助けてもらってばかり。それが辛いの。」
華の声は震えていて、隼人は彼女がどれほど悩んできたかを痛感した。


隼人は深く息をつき、彼女の両手をしっかりと握った。
「華、俺は君と一緒にいることが幸せなんだ。負担だなんて思ったことは一度もない。それどころか、君がそばにいることで、俺は毎日救われている。」

華は驚いたように彼を見上げた。

「君が頑張っている姿を見ると、俺も頑張らなくちゃって思えるんだ。君が笑ってくれるだけで、それだけで俺は生きてる意味を感じる。」
隼人の声は真剣だった。

「それでも、君がどうしても一人で頑張りたいって言うなら止めない。でも、無理だけはするな。君が苦しむのを見るのは、俺には耐えられない。」

華は目に涙を浮かべたまま、少しだけ笑った。
「隼人さん、ありがとう。でも、少しだけ私に時間をくれる？自分でできることをもう少し増やしてから、また考えたい。」

隼人は安心したように頷いた。
「もちろんだよ。君のペースでいい。俺はずっとそばにいる。」


その夜、隼人は彼女が寝静まった後も一人考えていた。華の不安を和らげるために、自分ができることは何なのか。

次の日から、隼人は華が少しでも自信を持てるように、家事を一緒にしたり、小さな目標を立てて一緒に達成することを提案した。華も少しずつ笑顔を取り戻し、二人の生活は再び穏やかさを取り戻していった。

数ヶ月後のある日、隼人は病院で仕事を終え、自宅に帰る途中で小さな箱をポケットに忍ばせた。華が悩みを乗り越えた姿を見て、彼は彼女との未来をさらに強く願うようになったのだ。

「華、これからも一緒にいてくれないか？」

その言葉をいつ、どう伝えようか。彼の心は少しだけ緊張しながらも、期待で高鳴っていた。