一生分の愛情をもらいました。
隼人が華の元に駆けつけ、医師から告げられたのは、予想以上に深刻な状況だった。胎盤が一部剥がれかけているとの診断を受け、隼人は息を呑んだ。華が無事でいられるのか、赤ちゃんは無事なのか、頭の中が真っ白になった。
「臨月ですので、すぐにでも帝王切開を行う必要があります。胎盤剥離が進行する前に、赤ちゃんと華さんの命を守るために最善を尽くします。」
医師の言葉が、隼人の心に重くのしかかった。
隼人は華の手を握り、震える声で「華、大丈夫だよ、俺がついてるから。」と言ったが、その言葉がどれほど力強いものであったか、隼人自身もわからなかった。華は少し不安そうに隼人を見上げ、微笑みながら言った。
「隼人…心配しないで。赤ちゃんも私もきっと大丈夫よ。」
その言葉に隼人は涙がこぼれそうになったが、今は華を守るためにしっかりとしなければならないという思いが強くなった。
「絶対に守るから、安心して。」
すぐに手術室へと運ばれ、隼人はその場にいられなかった。心臓が激しく鼓動し、足が震えるのを感じながら、隼人は外で待機することしかできなかった。
時間がどれだけ経ったのか、隼人には分からなかった。医師たちが手術を行っている間、ただただ祈るような気持ちで待ち続けた。
数時間後、ようやく手術室の扉が開かれ、医師が出てきた。
「無事に赤ちゃんは誕生しました」医師の言葉に、隼人の胸がいっぱいになった。
思わず膝から崩れそうになりながら、隼人は「本当に…?」と声を震わせて尋ねた。
「はい。赤ちゃんも華さんも、現時点では状態は安定していますがお母さんの方の出血量が気になるので引き続き様子をみます。」
医師は無表情で話した。
隼人は深く頭を下げて、医師に感謝の言葉を伝えた。
しかし、幸せな瞬間は長くは続かなかった。
医師たちが突然、再び慌てだした。
隼人は華の状態に異常を感じ取った。
「どうしたんですか?」
隼人はすぐに立ち上がり、華の元へと駆け寄った。医師は冷静に、しかし焦りの色を隠せない表情で説明を始めた。
「出血が止まりません。胎盤剥離が進行していたため、手術後も内出血が続いている可能性があります。再手術が必要かもしれません。」
隼人はその言葉に愕然とした。せっかく無事に赤ちゃんが生まれたと思ったが、華の命が再び危険に晒されている。心臓が締め付けられるような感覚が広がり、何もかもが遠のいていくような気がした。
「お願いだから…お願いだから助けてくれ!」隼人は手が震え、口の中で言葉が詰まる。
華の命がまたも危険に晒されている。隼人はその場で泣き崩れそうな気持ちを必死で堪えながら、華の元に走った。
「華、どうか、お願いだ、しっかりしてくれ…」隼人は涙をこらえ、彼女の手を握りしめた。
華はその手をしっかりと握り返し、「隼人、私は大丈夫…赤ちゃんが元気でいれば、それだけでいいの。」と、心配する隼人を安心させようとするが、隼人の顔には深刻な不安が浮かんでいる。
そして、蒼白な顔の華は意識をなくした。
医師たちは急いで準備を始め、再手術の準備を整える。
その場から離れることができない隼人は、ただ華の手を握り続け、心から無事を祈りながら、手術室に向かっていく医師たちを見守る。
華は再手術を受けることになり、隼人はまたも不安と恐怖に包まれる。
その時間、隼人は何度も祈るような気持ちで、ただ無力感を感じながら待つしかなかった。心の中で、華と赤ちゃんを守りたい一心で、何度も決意を新たにする。
その間も、隼人の頭の中には、華との未来が映し出され、どれだけ彼女と赤ちゃんを守りたいかという気持ちが溢れてきた。
「君がいなければ、俺は何もできない。だから、絶対に守る。」その言葉が、何度も隼人の心に響いた。
隼人の心は張り裂けそうになりながらも、医師たちが手術室から出てくるのを待つ。
ようやく数時間後、手術室の扉が開かれる。その瞬間、隼人は一瞬息を呑んだ。
医師が出てきて、すぐに「華さんは無事です。」と告げられる。
「赤ちゃんも無事で、出血は止まりました。危険な状態でしたが、命に別状はありません。」
医師の言葉を聞いた瞬間、隼人はほっとしたように力が抜け、その場に座り込んでしまった。
「本当に良かった…」隼人は涙をこらえきれず、深く深く息を吐き出す。その瞬間、全身が軽くなったような感覚に包まれた。
隼人は華の元に急いで駆けつけ、彼女が目を開けるのを待つ。少し時間がかかったが、ようやく華の目が開き、隼人の顔を見つけた。
「隼人…」
華は微笑みながら、力の限り手を伸ばす。その姿に、隼人は再び涙が溢れそうになりながらも、しっかりと彼女の手を握り返した。
「華、大丈夫だよ、君も赤ちゃんも無事だ。」
隼人はその言葉を何度も何度も繰り返し、彼女を包み込むように抱きしめた。
華はその安堵の表情を浮かべながら、
「ありがとう、隼人。あなたがいてくれて、本当に良かった。」と言った。
隼人はその言葉に微笑みながら、「俺も、君と赤ちゃんが無事で良かったよ。」と、力強く答えた。
再び二人の手を握りしめ、隼人は心の中で決意を新たにした。どんな困難が待ち受けていようとも、華と赤ちゃんを守り、共に歩んでいくことを誓った。そして、これから始まる新しい生活に向けて、隼人は一歩を踏み出した。