この想いが、キミに届きますように。




あのとき、“ゆっくりでいいよ”って言ってもらってから、月島くんに対しては少しだけ心が大丈夫になった気がするんだ。


……まだ、緊張は解けそうにないけれど。



──それでも、いつか乗り越えたい。


「あ、おかえり、藍」

「ただいま」


ハンカチで手を拭いながら帰ってきた彼女に、私はパタパタと近づいて声をかけた。


「……?ふたりでなんかしてたの?」

「ちょっとオレのプリントがこっち方面に風で飛ばされちゃったんだけど、それを田宮さんが取ってくれたんだ」

「わ、私は引っかかってたのを渡しただけで、そんな大したことは……っ!」

「うん。でも、助かったよ。ありがとう!」


曇りのない笑顔で、本当に嬉しそうに言う彼。


あの日と同じ優しい笑みに、心がじんわりと温かくなる。


「……うん」



──今はまだ、難しくても。

少しずつ、前に進んでいきたいって、そう思うんだ──。



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