合法浮気
「桐田 智夜。28歳。先ほども話しましたがY県にあるホテル併設キャンプ場の経営をしています」
「白河 彩里です。えと、28歳で……無職です」
その日の夜。智夜さん達が泊まるホテルのレストランで向かい合って座る。泥だらけのトップスだけは着替えてきたけど、まさかこんな豪華なところでディナーをする事になるとは……。
顔を前に向ければ今日はじめて会った男の人と目が合う。
お互いの"よろしくお願いします"という言葉と共にグラスをカチンと合わせた。
次々に運ばれてくるコース料理にナイフを入れて、アルコールのグラスを空にしていく。
「はは、同じ年だったんだね」
「でも、4月生まれなので」
「あー、俺は早生まれだから。じゃぁ、学年は1個下ってことか」
「え、あ、はい……多分」
「彩里ちゃんでいいかな?失礼だけど、妹からちょっとだけ事情は聞いたよ。事情が事情とはいえ、本当に俺と籍入れちゃっていいの?」
「は、はい。もう、何処にでも連れてっちゃっていいです!!」
「はははっ、勇ましいな」
声が少し大きくなって拳をつくれば、智夜さんが陽気な笑顔を見せた。
「智夜……さんこそ…いいんですか?偽りだとしても私なんかと結婚して」
「いいんだ。俺は恋愛に興味無いから」
興味ない?キョトンと首を傾げれば智夜さんが「今の生活に満足してるから」と言葉を続けてフッと口元を緩める。
縛られるのが嫌いなのだろうか。
まぁ、多様性の時代だしね。
「彩里ちゃんは俺でいいの?」
「私、恋愛は懲り懲りだから。甘い言葉をかけられて期待して信じて……落とされるなんて、もう散々で」
「じゃぁ、決まりだね」