合法浮気
01.契約
「ごめん、結婚やめにしよう」
「……え?」
「本当にごめん。大分にもついて来なくていいから」
「ちょっと、待ってよ……そんな急に言われても!な、何で?」
「だって彩里、お前──……、」
言葉の刃というものだろうか。
ガツンと頭を凶器で殴られた衝撃を受ける。
いつものカフェチェーン店。珈琲の香り。話し声とざわめき。お店のBGM。全てが遠くに聞こえる。
彼は婚約者として結婚を前提に付き合っていた。
県外に住む彼の両親にも挨拶をして、来月、大分に引っ越す予定で準備もはじめていた。今住んでいるアパートも契約更新をしなかった。
仕事も先週退職。後任に引き継ぎだってしたし。今さら戻れない。つまり、無職。
──あんたは可哀想──
憐れみの視線にぶるりと身震いがした。