合法浮気
「すみませーん」
ガクッと頭を落としたところで、前から男の人が走ってくるのが見えた。
「うちの柊が何かしました?」
「ううっ、と……ちゃん」
小さな子供が泣きながら父親に手を伸ばすと、その男の人がひょいと男の子を持ち上げる。
この人が父親なのか。随分と若いな。
二重の整った顔立ちに健康的に焼けた肌。オーバーサイズのTシャツにベージュのショートパンツとスニーカーがよく似合っている。
20代後半だろうか。年も私とたいして変わらなそうなのにもう1児の父親なのか。
「あ、いえ……ちょっとぶつかっただけで」
探しに来るの遅いし。親ならちゃんと見てて欲しい。
子供とは無縁の私に、泣いている子を注意するなんて度胸ないし。
文句を言いたいのは山々だけど、変な因縁つけられるのは嫌だ。何より子供なんかに関わりたくないし。
「うわ、洋服泥ついてるじゃないですか……。て、うちですよね?」
男の人が子供と私の洋服を交互に目を向けて、あちゃーとばかりに右手を顔に当てる。
本当だ。私の見に纏う白のノースリーブが泥だらけだ。
最悪。まだ2回しか着てないのに。手洗いで落ちるかな。まぁ、通販のプチプラのsale品だけど。
「……………そうです」
「え?」
「た、………大切な服なんです!!すっごく高かったんです!!!」
──大丈夫です。どうせ安物ですから──
こう伝えようとした筈なのに、私の口から出た言葉はとんでもないものだった。