合法浮気
「少し落ち着きましたか?」
「……はい」
鼻をズズズッと啜る私にティッシュが差し出される。
公園のベンチに並んで座るのは小さな男の子の母親で、小柄でふんわりとした雰囲気をしている若い女の人だった。
この人も私と同じ位だろうか。
「柊が思い入れのある大切なお洋服を汚しちゃったみたいで」
「いえ、安物です」
「え?」
申し訳なさそうに話す彼女の言葉を遮ると、若いママが不思議そうに首を傾げた。
「恥ずかしい話、先週婚約してた彼に振られちゃって……」
「そうだったんですか」
「彼について引っ越しする予定で仕事も辞めてしまったんです。アパートも解約してしちゃったので、実家に帰るしかなくて……それに……、」
はじめて会った女の人に何を話しているのだろうか。いや、知らない人だからベラベラと話せるのか。
私の話を静かに聞いてくれるこの人が、どんな心境だかよく分からないけど。
私達の視線の先には、さっきの男の人と小さな男の子がボールを蹴って遊んでいる姿がある。
「優しそうな旦那さんで羨ましいです。お子さんとも遊んであげて。……だから、あなた達夫婦が羨ましくなっちゃって。あは、情緒不安定なのかなー。お恥ずかしいです」
「あ、夫婦じゃありません。兄です」
「え?」
「兄なんです」