合法浮気
「そうなんですか……」
「私、シングルマザーで。ときどき、兄に遊びに連れてって貰ったりしていて。今日はY県からここに遊びに来たんです。ほら、知らない場所って気を使わなくて楽だし」
Y県って、ここから高速を使って車で2時間くらいの距離だろうか。
幸せそうに見える人にも事情があるんだ。見た目じゃ分からないな。
私も知らない所に行っちゃいたい。
「分かります。私も、遠くに行きたいな」
ポツリとそう口にして、小さな息を吐いた。
この際、家族と離れて、今の土地を去って、新しい仕事を探して、再スタートをきってもいいんじゃないかな。
「あー、この際、Y県で仕事探しちゃおうかなー」
"あはは"と言葉を続ければ、女の人が私の手を両手でガシッと掴んで目をキラキラと輝かせながら口を開いた。
「じゃぁ、一緒に来ませんか?」
「えっ?」
「ねぇ、お兄ちゃーん!!この人、うちで働いて貰うのどうかなー??」
「えええっ?ちょっとまだ……そこまでは」
「えー、そうなんですか!?残念です」
「いや、えっとどんな仕事なんですか??」
「これからオープンする予定なんだけど、お洒落なカフェみたいな?」
飲食店のオープニングスタッフなのだろうか。
急過ぎて頭が追い付かないでいると、呼ばれたであろうお兄さんと男の子が私達の前に走ってくる。
「茉昼、何か呼んだ?」